秋が足早に通り過ぎて、すっかり肌寒くなった頃、キャシーの友人はヤリマンだという理由で友達を一人無くした。
「ヤリマンとは友達になれない」と真顔で友達に言われたようで、彼は落ち込んでいた。
「ヤリマンだなんてひどいこと言われて散々だったね」と慰めると、彼は首を横に振った。
「別にヤリマンはヤリマンだからそこはいいの!でも友達やめるっておかしくない?」
自他共に認めるヤリマンの彼は、豪快でオープンで賢い…ヤリマンだ。
アドベンチャーで興味があればどんな変態プレイにも手を出す。もちろん、手を出すからにはしっかり事前に知識とスキルを身につけるほど勉強熱心。その上、自分と相手の健康を最優先に考えていて、性感染症予防には手を抜かない。
そんな自分を恥じることもなく、すべてをさらけ出してまっすぐにセックスや恋愛に猪突猛進する。したくない人にセックスを強要したりしないし、相手の許可なしには何もしない。浮気には人一倍厳しくて、自分の恋人じゃない人とデートしたりセックスする場合はちゃんと相手から了解を得ている。
キャシーから見れば、ヤリマンプライドに溢れた彼は尊敬に値するステキな人間だ。ただ、そうとは思わない人も多いようである。
子供の頃から、セックスに興味を持つことはいけないことだという同調圧力をひしひし感じた。
セックス好きだと烙印が押された日には、みんなからエッチだとかスケベだとか呼ばれてしまう。オトナになれば、セックスは社会規範の中で適度にしておくものになる。それ以上したり、それ以外のことをやってしまうと変態とか尻軽だと呼ばれてしまう。
セックスをしないとこれまたバカにされるので、常に綱渡り状態である。本当のところ、どこが境界線なのかなんて誰もわからないから、ビクビク手探りで丁度いいとされる場所に隠れさえすれば、辛うじて後指を指されずに済む。
そんな肩身の狭い思いなんてしたくないから、なんと言われようとヤリマンの彼は誇らしく生きている。むしろ、ヤリマンは彼にとって褒め言葉であって、大事なアイデンティティでもある。
言うまでもないが、ヤリマンとは不特定多数の男性と肉体関係を持つ女性を指すスラングで、一般的にネガティブな中傷言葉として使われている。世間ではヤリマンはふしだらであばずれでだらしないのだ。
そして、なぜかゲイコミュニティでもヤリマンが不特定多数の男性と肉体関係を持つゲイ男性を指すスラングとして使われている。ちなみに、なぜヤリチンではないのかは定かではない。