皮肉なことに、今までで一番印象に残っているのは失敗だらけで完璧とはほど遠いセックスである。
キスしようとして頭突きしちゃったり、全然入れたい穴に入らなかったり、ベッドから落ちちゃったり、コメディ映画のワンシーンのような滑稽なセックスだったが、そこにはちゃんと人間味があった。お互いを気遣って、相手を楽しませようと一生懸命だった。
不調和音も多かったかもしれないが、がっちりかみ合った瞬間の喜びもひとしおだった。
自信満々に「ほら、良かっただろ?」とは言えないかもしれない。でも、胸を張ってお互いが楽しめたとなら言える。
高校生の頃、体育会系の男友達と下ネタでよく盛り上がった。
そこで必ず話題になるのが、いかに上手に女性をイカせられるかという自慢話だ。
童貞だった自分は黙って聞くしかなかったが、それでも、その場に溢れていた「セックスが下手ではいけない」という見えないプレッシャーは痛いほど感じた。
そのせいか、大学に入って男性とセックスするようになった時、自分が上手いかどうかばかり気になった。
どこかで読んだバキュームフェラのテクニックを鵜呑みにして、ひけらかすように誰彼構わず吸引していた。
「ねぇ、痛いからそれ止めてくれる?」
ある日、そんな指摘をされるまで自分のフェラは上手いと自信過剰になっていた。果たして今までどれほどの人がこのフェラで痛い思いをしてたのだろう。
それでも自信満々に吸うキャシーを傷つけたくなくて気持ち良さそうな演技をしていたのかと想像したら、顔が真っ赤になった。
「ねぇ、気持ちいい?」と一言かければすぐにわかることなのに、それが聞けなかったのは自分のプライドの高さと自信のなさが邪魔をしていたせいなのかもしれない。