極太すぎるイチモツ

河鍋暁斎『はなごよみ』元治元年(1864年)国際日本文化研究センター所蔵

『はなごよみ』は12枚組物の絵暦で、各月ごとに花札が描かれています。本図の花札には、見えにくいですが“菊”と“盃”が描かれており、9月であることがわかります。

秋のきのこ狩りへ出かけた女性と子供は、誰もいない場所できのこを採っていたら、目の前に現れた極太のイチモツに驚いて、ひっくり返っています。その驚きようは、採ったきのこを宙にぶちまけてしまうほどです。頭隠してマラ隠さず。絵師の河鍋暁斎は、イチモツの生え際が絶妙に見えないように描いていますが、このイチモツの生え方だと腹から生えていますね。彼はこの野山に潜んで、通行人を驚かせているのでしょうか。

いかがでしょうか。これら春画におけるイチモツの誇張は、性器が子孫繁栄や夫婦和合のシンボルになっていたり、万物を創造するおめでたいものであるというイメージから由来していると思います。また性器を誇張して描くことで、絵の見応えがうまれるようです。鎌倉時代に成立した『古今著聞集(ここんちょもんじゅう)』には、春画に描かれる性器の大きさについて、このように書かれています。

「古来の絵の上手な者たちが描いた偃息図(おそくず。春画)を見てみなさい。性器の大きさは大きく、現実の大きさとはかけ離れている。性器をありのままの大きさで描けば見どころがないのだ。」

春画の中の性器の誇張表現が、伝統的な手法であったことがわかります。ちなみに大きなマラを受けるために、女陰もかなり大きく描かれています。中国より影響を受けた日本の春画は長い年数を重ね、独自の発展をしてきました。春画に描かれた性のおめでたさや笑いは、今も国内外問わず、私たちに驚きと笑いをくれます。

Text/春画―ル

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わたし、OL。推しは、絵師――美術蒐集はお金持ちだけの特権ではない。
美大に通っていたわけでも、古典や日本史が好きだったわけでもない「わたし」が身の丈に合った春画の愉しみ方をユーモアたっぷりに伝える。自分なりの視点で作品を愛で、調べ、作品を応用して遊びつくす知的冒険エッセイ。個人所蔵の珍しい春画も多数掲載。