女陰に見える開谷

手細工の森の道中で案内人の男と……後ろには開谷が広がる。 竹原春朝斎《異開奇莖/於荘玉開(いかいきけい/おそうぼぼ》1795年 国際日本文化研究センター

手細工の森の道すがら、開谷(へきたに。開は交合や女陰の隠語)を見渡すと、草がぼうぼうと生い茂り、谷と谷の間は青草の匂いが漂う。その谷は新開(あらばち。処女の股)よりはじまり様々な見た目の女陰に似ており、まるで赤貝のよう。自由仕躰国の金持ちは、湯治のためにここへ小座敷を建て、様々な女陰に似た谷の景色を楽しむというのだ。

お庄にとってこの開谷は退屈に感じたのだが、もう少し進むと、なんということか。一面に男根が生えた「茎(まら)の原」にたどり着いた。地面から生えるその男根のたくましさといったら、言葉にすることができない。

茎の原で朝日を浴びて育った元気なマラを味わうお庄。 竹原春朝斎《異開奇莖/於荘玉開(いかいきけい/おそうぼぼ》1795年 国際日本文化研究センター所蔵

麩のように女陰の中で密着する麩まら、上反り雁高、根元の太いまら、先の太いまら、巨根に小まら……それぞれが朝日が昇るにしたがい茎盛んに生い茂り、これが茎の原の名物である。

お庄はその景色に我慢できなくなり、上反りのまらに近寄れば、あら不思議! その茎はむくむくむくとすぐにいきり立った。お庄は茎の上から茶臼(座位)の体勢で乗りかかり、金玉の元までイチモツを入れこみと、その味わいはまるで人間の男根そのもの! その気持ちの良さに不足はないが、抱きつくものがないため腰を伸ばしつつ挿入し、ふなふなとするその茎は、お庄がイク度に金玉が人間のようにぶるっと動く。そのまま二回イったお庄は着物から紙を取り出し股を拭き拭き。お庄が堪能した茎はすっかりと縮こまった。それでもこの茎の原が名残惜しいお庄だが、この原を跡にした。

やっとたどり着いた手細工の森

手細工の森の名物は太ももを愛撫するような気持ちの良い風とセンズリする人々。 竹原春朝斎《異開奇莖/於荘玉開(いかいきけい/おそうぼぼ》1795年 国際日本文化研究センター所蔵

一里ほど歩くと、遂に手細工の森にたどり着いた。歩き疲れたお庄は森でしばらく休んでいると、そよそよと風が吹く。その風は、お庄の太ももを愛撫するように吹き、その気持ち良さったら我慢できない。そう、それが手細工の森の由来なのだ。この森に遊びに来た人々はセンズリをせずにはいられず、道中でセンズリをする人がいるのもこの森の名物なのだ。

お庄は手細工の森を見回すと「女人禁制」の立木があるのを見つけた。次はどんな国が待っているのかとお庄がワクワクしていると、相棒の鶴がやって来た。お庄は鶴の背中に乗り、次の国を目指すのであった……

というお話です!
次の国、“男だらけの男色の国”がどのように繁栄したかの話なのですが、残念ながら今回はこれでおしまい。

この春本は全四冊あり、今回紹介した話の内容はごく一部です。『異開奇莖/於荘玉開」にはこの他にも、スケベでおかしな国がたくさん登場します。

江戸期の本と聞けば、堅苦しいのではないかと感じていた方もいるかもしれませんが、先人たちは人々をあっと驚かせようと創作し、時を超えて私たちを笑わせにやってきます。

おみくじをしないとセックスできない国、地面にニョキニョキ生えた男根、シコシコとセンズリせずにはいられない森。江戸のスケベファンタジーを知るきっかけになれたら幸いです。

Text/春画―ル

待望の書籍が3/31に発売!

わたし、OL。推しは、絵師――美術蒐集はお金持ちだけの特権ではない。
美大に通っていたわけでも、古典や日本史が好きだったわけでもない「わたし」が身の丈に合った春画の愉しみ方をユーモアたっぷりに伝える。自分なりの視点で作品を愛で、調べ、作品を応用して遊びつくす知的冒険エッセイ。個人所蔵の珍しい春画も多数掲載。