自分を憎んだまま長生きしたいか?「もしも夫が整形したいと言ったら」/カレー沢薫

今回のテーマは「もしも夫が整形したいと言ったら」である。

私は夫に「女性なんだからもう少し身だしなみに気をつけなさい」と会社員時代に言われたことがある。

「女性なんだから」という言い回しは「早急にツイッターを燃やしたかったら必ず入れましょう」と炎上マニュアルの3ページ目(目次のぞく)に書かれているし、何だったら帯にもデカく書かれている。

しかし夫の言う「身だしなみ」とはその昔某駅ビルを灰塵に帰したCM「職場の華になるような服装をしよう」という意味ではない。
「人間の大人として健康で文化的な最低限度の格好をしろ」という、どちらかと言えば「憲法を守れ」という注意であった。

つまり夫的には「人間なんだからもう少し身だしなみに気をつけろ」と言いたかったのだと思うが、それだとナイフのエッジが効きすぎているので「女性」と丸い言い方をしたのだと思う。

このように、夫は身だしなみに関しては私の2兆倍ぐらい気にしている人だ、つまり100点満点で75点ぐらいは気にしている。

服も定期的に買い替えているし、クリーニングに服を出すのも夫だ。
私が一日中臭い自室にいて嗅覚を失う一方で、夏場は消臭スプレーなどを携帯したりしている。
散髪にも頻繁に言っており、ヒゲも毎日剃り「ヒゲが生えにくくなるローション」を使っているのを見たので、私のアナル周辺に当てたもので良ければ、途中で投げ出した光脱毛機器をあげようかと思ったが「いくらしたの?」と聞かれたら困るので言い出せないでいる。

だが、夫が服を買うのは専らユニクロ、さらに同じものを2枚も3枚も買い、洗顔料は俺たちの「ザ・巨大」で買ったメンズスクラブ洗顔料、そしてそれをたまにパクって使う私と、美容アカが見たら発狂してメンヘラ鍵アカになるぐらいこだわりというものが見受けられない。

つまり身だしなみは気にしても「オシャレ」にはそこまで関心がないようだ。
それと同じように、人間の顔面のデザインにもあまりこだわりがないように見え、テレビを見ていても「このアイドル可愛い」的なことを言っているのを聞いたことがない。
それどころかおキャット様が映っても無反応なので、もはや「美」という概念がないのだとう思う。

つきあいはじめ最初期のころ「好きな女性芸能人は?」という今だったら絶対しないヌルい質問をしたところ、そこまで考えるかという長考の末に「山田まりや」と答えていたような気がするぐらいだ。

しかし私も三次元の男である芸能人で好みのタイプは、と聞かれたらかなりの長考に入る。
だからとと言ってわざわざ夫に「拙者二次元の男大好き侍と申す」と名乗りをあげたりはしないので、夫も私に言わないだけで人間のビジュアルに対するこだわりがあり自分の顔についても何らか思うことはあるのかもしれない。