「勝利を捨ててまで長生きしたいか」

というわけで「夫が整形をしたいと言ったら」だが「整形をしたい」という意志は尊重したいが、健康的、経済的な意味では要相談だと思っている。

整形というのは決して安いものではない、自分の給付金で二重まぶたにすると言われたら止めようがないが、共同貯金から出したいと言われたら「プレゼン資料ぐらい作って来い」という。

また、美容整形技術も向上していると思うが、体を切ったり縫ったり、何かを注入することが安全とは言い切れないところがある。
今は良くても、時間が経つごとに「パッチワーク体験1日目」みたいな造形になるのは辛いだろう。

しかし本人が自分の金でリスクを理解した上でやりたい、と言うなら止められない。

整形したいということは、今の自分のデザインに不満がある、つまり「自分をあまり好きではない」ということである。
年を取ってからジェンガの如く整形部分が崩壊する恐れはあるかもしれないが、自分のことが嫌いなまま何十年と生きるのも辛いだろう。

漫画『グラップラー刃牙』に「勝利を捨ててまで長生きしたいか」という名言がある。
これは、危険なドーピングを繰り返してまで強さを求めるキャラのセリフだが、整形にも通じるところがある。

「自分を憎んだまま長生きしたいか」という話である。
それよりは、多額の金銭を払い、期間限定の恐れはあっても「好きになれる自分で生きたい」という選択を否定することはできない。

そもそも「見た目を変える」というのは、一番簡単な「自分を好きになる努力」な気がする。
内面を変えるのは難しいし、そもそも成果が見えにくい、それに対し外面というのは、ダイエットすれば痩せるし、整形すれば確実に変わるし、最低限キレイな服さえ着れば清潔感ぐらいは得られるのだ。

それすらしないで袖にピザポテトの粉末をつけて「どうせ生まれつきブスだし何やっても無駄、努力でなんとかなるレベルの人はいいですね」と言っている人間に対し、努力している人が怒りを覚えるのはわかる。

せめて何も努力する気がなければ「黙ってブス」を心がけたい。

Text/カレー沢薫

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