つい先日も…

 取れたてほやほやの母に関するエピソードがあります。つい先日のことです。
母が「親戚から貰った」と、新米と牛肉を持って私が夫と住む部屋にやってきました。荷物を置いたらすぐ帰る、トイレだけ貸してくれ、というので部屋に上げました。トイレから出た母とリビングで立ち話をしているときに、私の不妊治療に関する話題になりました。母は不妊界隈によく現れる「治療やめたら出来るわよ婆」なので、その日も「知り合いの娘さんは四年も不妊治療をしたけど、治療をやめたら自然妊娠した」と既に母から50回くらい聞いた同じ話をまたしていました。そこまでは感情ゼロの顔で聞き流していたんですが、続けて母は「赤ちゃんも結婚式おわるまで気つかって来ないようにしてるんちゃう?」と言いました。

 私は、まだ着床すらしていない胎児以前の存在に、まるで人格があるかのように話すのが心底嫌いです。それは胎内記憶的なトンデモに直結するし、胎児以前の存在に人格を認めてしまったら、不妊で悩んでいる人たちがみんな「胎児以前の存在に選ばれない、親になる資格のない人」になってしまうからです。そんな暴力的な考え方がまかり通っていいわけがないです。

 しかも、この「結婚式が終わるまで赤ちゃんも遠慮している」という言い方は、私自身が親に気を使って遠慮しながら生きてきた子供だったのに、「着床前から子供に気を使わせるような親」と言われるようで(しかも私が気を使い続けてきた母本人から!)、どうしても耐えられない文言なのでした。なので、やんわりと「私、そういう(胎児以前の存在に人格を与えるような)考え方って好きじゃないんだよね」と伝えました。

 母は、私が「そうだよね!結婚式が終わったらきっとすぐ赤ちゃんきてくれるよね!ママありがとう!」と明るく笑顔で答えるのを期待していたのでしょうが、私が反論したのでもう即ブチギレです。「ハイハイまたママが嫌なこと言ってすみませんでした!!」と絶叫し、「せっかくママはあんたに気使ってよかれと思って言ってあげたのに!」と玄関ドアを叩きつけるようにして帰っていきました。早く帰ってくれて助かりました。これが実家なら、ブチギレからの号泣(ママはみみちゃんが可愛いからこういうことを言うのに~ママのことなんか誰も考えてくれない~)からのブチギレというエンドレスループに入るところでした。

 玄関が閉まる瞬間、母は涙目で私を睨みつけていましたが私は再び感情ゼロの顔で見送り、部屋の母が歩いたところ、触ったものに塩を撒く気持ちで「おいせさん お浄め塩スプレー」をブシャブシャ噴射して回りました。

 その後自分で車を運転して帰ったはずの母ですが、おそらく赤信号で車が停まるたびに送っていたのでしょう、長文のLINEが度々届きました。毎度のことなのですが、こういうときに母が送ってくる文章は過剰にポエミーで(なぜか必ず私のことを「貴女」と表記してくるところが自分に酔ってるっぽくてキモい)、おまけに文章が下手なので何が言いたいのかさっぱり分からないのですが、要約するとひたすら「私は悪くない、私の意図を正しく読み取れないお前が悪い、私は傷ついた」ということが書かれているっぽいです。既読無視するとまたブチギレて今度は通話がかかってくるので、またしても私は感情ゼロの顔で、うさぎが泣いて謝っているスタンプを連打しておきました(これも加減を間違えると「ママを馬鹿にして!」と通話がかかってくるので、頻度が難しいのです)。