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  • 2017.03.18

「父にも物語があった」二世代へ捧ぐ『ひるね姫~知らないワタシの物語~』神山監督インタビュー

3月18日より公開する『ひるね姫~知らないワタシの物語~』。夢と現実、昔と今、そして父と娘。様々な対比で「家族」を描く今作には、どんな思いが込められているのだろうか。監督である神山健治さんに、『ひるね姫』に込めた熱い思いをうかがった。

 その子が生まれて初めて触れた物語は、きっと耳元で囁かれたに違いない。お父さんやお母さんが読み聞かせてくれたお話。それは目で見るより想像に限りがなく、うとうとと夢と現実の境目で心地よく耳を傾けていただろう

 『ひるね姫』の主役・ココネの物語は最新鋭のテクノロジーやファンタジー描写がふんだんに盛り込まれている一方で、家族愛というどの時代にも通じる普遍的なテーマが詰め込まれている。

 誰もが眠る時に見る“夢”がストーリーを作り出す。むしろ覚醒し、目が冴えてしまう。そんなアクションアドベンチャー作品への発想を掻き立てるものは何なのか。神山健治監督自身の幼い頃の記憶や子育て体験も交えて、どことなく父性を匂わす本作についてお話を伺った。

父と娘は一番摩擦を避けたい関係

神山健治 映画 ひるね姫 監督インタビュー たけうちんぐ
神山健治監督

―主役の森川ココネは天真爛漫でとても魅力的なキャラクターでした。

「田舎に住んでいる普通の女子高生を主人公にして物語を作ろう」っていうのがスタートだったので、ココネ自体はだんだんと出来てきたキャラクターですね。ただ、お父さん(森川モモタロー)が元ヤンキーっていう設定だったので、行動力のある女の子にしようとは思っていました。

 でも、描いていくうちにリアルにいたら心配になるくらい呑気な子になりましたね(笑)。

神山健治 映画 ひるね姫 監督インタビュー たけうちんぐ
(c)2017ひるね姫製作委員会

―タイトルも印象的ですよね。

 タイトルも、最初は『エンシェンと魔法のタブレット』(Huluにて配信中の短編作品のタイトル)だったんです。
 キャスティングが決まるくらいのタイミングで、「ココネを一言で表すとしたらどういう子だろうね」って感じで『ひるね姫』というタイトルになりました。

―食卓では話さないのに、SNSでは饒舌なココネとモモタローの父娘関係がすごく現代的でした。

 これは自分自身がそうだからですかね(笑)。でも、ウチだけかなと思っていたら、意外にもアメリカ人の知り合いからは「いやぁ、うちもなんだよ」と言われて。
ちょっと大袈裟な描写かも知れないとも思ったんですけど、案外ポピュラーなのかもしれませんよ、今は。

―なぜモモタローは対面では話せないんでしょうか。

 父と娘って、一番摩擦を避けたい関係だとも思っていて。父親には照れみたいなものがあるし、娘はお父さんが一番嫌いになる時期だし…。
とくに、お母さんがいない場合、娘と踏み込んだ話がしづらいというか。

―ココネもそうなんでしょうか。

 娘としては、踏み込んだ話がしづらいというより、お父さんにストーリーがあるなんて思ってないんですよね。「お父さんは生まれた時からお父さん」ですからね。

 ある程度の年齢になると、お父さんにはお父さんのストーリーがあると気づくんでしょうが、ココネはまだまだ気づいていないんでしょうね(笑)。

娘に聞かせた寝物語

神山健治 映画 ひるね姫 監督インタビュー たけうちんぐ
(c)2017ひるね姫製作委員会

―「夢と現実を行き来する」というストーリーを思いついたキッカケを教えてください。

 娘が小さかったとき、寝る前にお伽話を聞かせていたことがある。最初は『桃太郎』や『浦島太郎』の話をしていたんですが、今はアニメとかが過激だからそういう話だけでは飽きちゃう。だから、創作を混ぜて話すようにしたら、娘がすごく喜んでいた。

―すごく豪華な寝物語ですね(笑)。

 で、自分も振り返ってみると、小さい頃はアニメや特撮に夢中になって、現実と夢がボーダレスになるときがあったなぁと思って。そこで「夢と現実を行き来する話はどうだろう」と。

でも、それって「夢の世界に行く」っていうよりは「夢の方が現実に影響を与えている」ってことだから「夢が現実に侵食してくる」というアイデアになっていったんです。

―お子さんには監督がその場で思い付いた物語を聞かせていたのでしょうか?

 もう、ほんとに即興で(笑)。アクションとかがある方が喜ぶんだなぁとか、リアクションを見ながら。

―それと同じように、本作にも父親的な目線を感じました。

 殊更に意識はしなかったんですけど、自然と出ていたのかもしれませんね。

―モモタローは監督の理想の父親像なんでしょうか。

 どうでしょうね。でも、モモタローみたいな父親になるのも難しいですよね(笑)。

20世紀と21世紀の「東京オリンピック」

神山健治 映画 ひるね姫 監督インタビュー たけうちんぐ
神山健治監督

―なぜ2020年を舞台にしたのはなぜでしょうか。

「家族」の話って、「世代」の話でもあるんですよね。だから「VR」や「自動運転」などテクノロジーを取り入れることで、世代の対比を描けるんじゃないかという発想からですね。で、そのテクノロジーもそうなんだけど世代の話を描こうとしたときに、「東京オリンピック」もキーになるかなと。

―昭和にも開催されましたし、2020年にも開催されますもんね。

 前回の東京オリンピックは、日本にとって20世紀最大の成功体験の一つですよね。だから上の世代は、2020年の東京オリンピックでも成功体験をなぞろうとする。でも、若い世代は同じやり方では成功しないと思っているんじゃないかな。

―では、2020年になったらこの作品はどのような存在になっていてほしいですか。

 最終的には希望を描きたいと思っているので、成功体験をなぞって失敗するってことにはなってほしくないです。2020年になって観たときに、「あのときはなんとか希望を見出そうと思って描いていたけど、そうなったね」ってなるといいと思いますけど。

神山健治 映画 ひるね姫 監督インタビュー たけうちんぐ
(c)2017ひるね姫製作委員会

―この作品をどのような方に観てもらいたいですか?

 基本的にはココネと同世代の人に観てもらいたいなって思って作っています。さっきも言ったけど、僕も高校生くらいの頃って自分の両親にストーリがあるなんて、あんまり考えていなくて、どちらかというと自分のことでいっぱいいっぱいでしたよね。だけど、父親や母親にも自分と同じ年齢の時があったはずだよなぁということに気づくタイミングがあると思うんですね。

 NHKで放送している『ファミリーヒストリー』っていう、自分が生まれてくるまでのストーリーを追体験することで自分のルーツを感じる番組がありますよね。この作品も、そういうキッカケになってくれたらいいなぁとは思います。
それと、子どもがいる親世代の方にも観てもらいたいかな。大人になると、「俺が子どもの頃は……」と自分の体験だけを押し付けてしまいがちだけど、時代も変わってるんだっていうことを忘れちゃいけないなと思うんですよね。出来れば両方の世代に観ていただきたいなって思います。

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 神山監督の即興の創作シナリオを幼い頃から読み聞かせられたお子さんは、どのように影響を受けて育つのだろうか。「もうちょっとアクションがある方が喜ぶ」だなんて、アクションシーンが豊富なこの作品と同じものを感じずにはいられない。

 ココネが初めて触れる両親のストーリー。そこでは親を知るだけでなく、そこから生まれた“ワタシ”自身を知る旅にもなる。誰かが誰かのために読み聞かせた、その二人にとって一番優しい物語。それは世界にたった一つのもので、他の誰も踏み入れることができない。

 それが夢から現実へと橋渡しされた時、眠る前の耳元からスクリーンへと投影された時、子どもから大人へ向かう際に見る景色は今以上にもっと彩られるはずだ。

3月18日(土)全国ロードショー

監督・脚本:神山健治
キャスト:高畑充希、満島真之介、古田新太、釘宮理恵、高木渉、前野朋哉、清水理沙、高橋英樹、江口洋介
音楽:下村陽子「キングダム ハーツ」
主題歌:「デイ・ドリーム・ビリーバー」森川ココネ(ワーナーミュージック・ジャパン)
キャラクター原案:森川聡子『猫の恩返し』
作画監督:佐々木敦子『東のエデン』、黄瀬和哉『攻殻機動隊S.A.C.』
演出:堀元宣、河野利幸
ハーツデザイン:コヤマシゲト『ベイマックス』
制作:シグナル・エムディ
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c)2017 ひるね姫製作委員会


Text/たけうちんぐ