理想以前の問題
自己批判が止まらないので、この話はここで終了だ。そしてもうお気づきだろうが今回のテーマは「理想の奥様像」である。
前述の通り、自分の好きな二次元の男と付き合う女、つまり乙女ゲーのヒロインなどに対する私の理想はとても高い。小姑暦50年の達人のごとく厳しい。
よって、それとのバランスを保つために、自分への理想は極めて低くしている。常に「このぐらいでいいだろう」と思って生きてきた。その結果「このぐらい」の高さがどんどん下がって今にいたる。
よって、結婚したときも「いい奥さんになろう」とは思ってなかった。
お互い共働きゆえに、家事は最初から分担だという話になったが「メシだけは作ってくれ」と言われたので、メシは今も私が作っている。だが逆に言うと、私はメシ以外のことを破竹の勢いでやらなくなった。
よく「共働きなのに家事負担が圧倒的に女の方にある」という怒りの記事を目にするが、私はあれに同調して怒ることができない。明らかにうちは逆パターンだ。
どうしてそうなるかと言うと、夫がやってくれるから。そしてそれに対し不満を言わないからである。
これから結婚する方は、配偶者というのは、やってあげるとそれが当たり前と思うし、文句をちゃんと言わないと際限なく増長するものだと思った方がいい。
しかし、確かに夫は甘い方であり、人にやらせるより自分でやるタイプだが、私に対して不満がないわけではない。もちろんクソほどある。
だが、それを言うタイミングがないのだ。夫も仕事が忙しい上に、基本的に私が引きこもりなので、家にいるときはずっと自室にこもっている。我々が一緒の空間にいる時間は一日5分くらいだし、会話も3往復ぐらいなので、小言を言う隙がないのだ。
よって、夫が腹据えかねたことを言うのは、滅多にない。対面で長時間時間を共有する時だけなのだ。その時とは、誕生日とか結婚記念日とか特別な日である。
つまり私は、自分の誕生日、ちょっと小洒落たレストランの席で夫に「もうちょっと便所をキレイに使え」などと言われてしまうのである。
正直、その後はナニを食っても砂の味である。今言わなくてもいいじゃないかと思うのだが、そういう時しか言えないから言うのだ。
夫は小言の少ない人だが、言う時は必ず心臓を仕留める人だ。
そしてその苦言はいつも正しい。よって私の「理想の奥様像」は、奥様以前に「人としてちゃんとすること」である。
隣に長谷部の幻覚を寝せている場合ではない。
Text/カレー沢薫
※2016年10月14日に「TOFUFU」で掲載しました
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