娘は特別な存在では?
二、三歳の時分、娘の一番のお気に入りは、粘土遊びだった。
僕も、随分と付き合わされたものである。
ある日。
「パパ―!ももちゃんの“おかお”つくりたいー!!」
粘土で自分の顔を作りたいらしい。
粘土遊びの教本に載っている、“女の子の顔”なる作品の例。
それに刺激され、作ってみたくなったのだろう。
“顔”と言っても、ブローチのような平面の作品。
なんとかなりそうである。
まず、白と赤の粘土を混ぜ合わせ、肌色を作る。
それを丸く平たく延ばし、顔の土台とする。
後は、ピザと同じ要領。
黒の粘土で拵えた小さな目をトッピング。
鼻や耳は先程の肌色の粘土で間に合うはずだ。
髪の毛は…などと、即座に頭の中で段取りをし、
「じゃあ、ももちゃん!一緒に作ろう…パパのまねしてねー!!」
娘を促し、早速、“顔”の作成にとりかかる。
しばらくの間、お互いの作業に集中していたが、
「うーん…もう!」
隣で、娘が愚図り始めた。
「どうしたの?」
と尋ねると、
「“おくち”どうやってすればいいかわからないーーー!」
“口”の作り方、つまり、粘土で口をどう表現するのかが分からないということか。
そう解釈した僕は、既に仕上がっていた自分の肌色の顔の土台、ピザ生地の下半分の辺りに、ヘラで線を描いてみせ、
「はい!お口!!」
と、娘に渡してやった。
しかし、
「ちがうちがうー!!」
即座に否定される。
一体、何が違うのか…その時である。
何か不気味なものが僕の視界に入った。
娘の傍らに、無造作に転がっている赤い物体。
粘土である。
長径八㌢程の楕円形、小判状に成形されたそれは、しかし、平たくはない。
中央部分に、ふっくらと厚みを持たせてある。
娘はその赤い粘土の塊を手に取り、
「おくちどうやってするのーー!?」
と僕に差し出してくる。
「ももちゃん…それ何?」
怖々と尋ねた僕に、娘は満面の笑みで答えた。
「べろーーーー!!」
そう…それは、人間の舌だった。
しかもどうやら実寸大の、大人の舌である。
恐らく、参考にしたのは僕か妻のそれ。
いずれにせよ、粘土で顔を作る際、普通の子どもが舌から作り始めるだろうか。
このまま成長すれば、我が娘は、1/1スケールの粘土人間を完成させるに違いない。
なんと猟奇的…そして、独創的。
僕は彼女の発想、その感性に、“舌”を巻いた。
「俺の娘は、特別な子どもかもしれない…」
気が付けば、僕は幼児の絵画教室や陶芸教室がないか、スマホで検索し始めていた。
その後すぐに、娘が粘土遊びに興味を示さなくなったので、思い止まれたが。
そうでなければ、通わせていたに違いないのだ。
子どもを前にすると、皆、“親バカ”になるのである。
※2016年9月17日に「TOFUFU」で掲載しました。
Text/山田ルイ53世
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