夫の一番の苦手分野

そんな夫の一番の苦手分野は「恋愛」である。

昔、我々が出会った行きつけのバーで飲んでいた時、常連の男性(彼女持ち)が女連れで店にやってきた。

二人の交わす視線や態度から「…ヤってる!」と眉間から稲妻が飛び出た私。

次の瞬間、夫が「あれ、今日は彼女と一緒じゃないんですか?」と言いやがったので、慌ててカウンターの下で脚を蹴ると「なんで脚を蹴るんだ」と言われて頭を抱えた。

ありえないほど気まずい空気…喩えるなら紀香と愛之助が飲んでるバーに陣内と熊切あさ美がやってきたみたいな空気に耐えきれず、私はお勘定を頼んだ。

店を出た後「あれはどう見たって友達じゃなく浮気相手でしょ!」と言うと「そんなもんわかるか!俺には哺乳類か爬虫類かの区別しかつかない」とキッパリ返された。

このように恋愛が苦手な夫は、ディープキスのやり方も知らなかった。「こうやってやるんやで」と舌を入れてみたら、目をシロクロさせて「こんなの外国映画で外人がやるキスじゃないか!」と言うので「日本人でもやるんや!」と返した。

そんな我々だが「夫婦は割れ鍋に綴じ蓋」をモットーに、得意分野と苦手分野で補い合って暮らしている。

今住んでいる中古マンションを購入した際も「インテリアに希望はあるか?」と聞くと「インテリアってなんだ?」と根源的な返しをされたので、壁紙も家具も何もかも私がセレクトした。

一方、夫は引っ越しの際に得意の運搬力を発揮していた。

だが夫がダンボールに書いた「ワレモノ」の文字が「ワレチノ」「ワレモレ」と微妙に全部間違っていて、私は引っ越しの間中ずっと笑っていた。

アラビア語は練習しているが、片仮名は苦手な夫。

TOFUFUで連載中のカレー沢先生も片仮名が苦手で「マリリン・マンソン」が「マソソソ・マソソソ」になる、とコラムに書かれていた。

うちの夫もかなりマソソソになる方だが、べつに片仮名など一文字も書けなくてかまわない。私が男に一番求めるものは戦闘力だからだ。

以前、女友達が我が家に泣きながら駆け込んできたことがある。

モラハラ彼氏に家に居座られた挙句、物を投げられて「出ていけ!」と追い出されたそうだ。

「クルド人のように気の毒だ」と同情する夫に「そんなゴミは駆逐すべきだな、キミいざとなったら出動してくれるか?」と聞くと「了解」と頷いて「ローリングコブラツイストをかけようかしら」と悟空のようにワクワクしていた。

私もかつてはモラハラ男にハマって「私なんていつ死んでもいい」ぐらいにメンがヘラっていたが、結婚後は「夫のためにも長生きせねば」と思うようになった。

健康で長生きするために、鼻クソを少しずつ食べてみてもいいかもしれない。

Text/アルテイシア
※2016年12月13日に「TOFUFU」で掲載しました

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