弟の返事は?

『今は気力がありません。そっとしておいてください』

弟の返事を読んで、私はスィーーーと息を吸い込み、叫んだ。「そっとしといてもらえる奴はええよなあ!!!!」

奴は面倒なことを全部丸投げして、逃げたのである。まあ、それは許す。

私は話のわかる姉である。葬式に出たくないなら、出なくていい。費用を出したくないなら、出さなくていい。ただ、電話やLINEを無視したことが許せない。
この状況で私がどれだけ困るか、どれだけ心配するか、考えなかったのか? 音信不通のまま自然消滅を狙う元彼みたいな所業を、よくも私にできたものだな?

とバチギレつつも、この時点では「父の自殺でショックを受けたんだろう、大丈夫かいな」と心配の方が大きかった。我ながら甘すぎるが、それは幼い頃から「自分が弟を守らなきゃ」と思って生きてきたからである。

だが、このしばらく後に「許さねえッ!あんたは今、再びッ!オレの心を『裏切った』ッ!」案件が発生して、今は弟とも縁を切ろうかと考え中。
それはまた今度書くとして。

母は変死して父は自殺して弟は生きているがポンコツだ。そう思ったら、体の内からめらめらと力が湧いてきた。
「俺は元気いっぱいに生きてやる!!!」

そして、元気いっぱいに出かける準備をした。

“飛び降り自殺した父の死体を引き取りに病院にお呼ばれファッション”の正解がわからないので、ZARAのトロピカル柄パジャマ風セットアップという、変態芸術家スタイルで出発した。

大学病院に到着後、待ち合わせていたクレリの担当者に「ヘーイ!」と駆け寄り「喪主交替でよろしく☆」とゴキゲンに伝えた。という話を夫にしたら

夫「キミが殺したと思われるぞ」
アル「大丈夫や、アリバイがある」

クレリさんはエグザイル風のイケメンとかではなく、しんみりしたフツメンだった。
「いざという時に頼りにならない兄弟なら、いない方がマシですね☆」とにこやかに話しながら、監査医務室のある棟に向かう。

母が死んだ時にも来たが、ここはアンナチュラルのUDIラボとは違って、陰気で古臭い建物だ。部屋に入ると中年の男性医師が一言の説明もなく、死体検案書を差し出した。

アル「ほう~死因は胸腔内臓器損傷ですか」
医師「ハイ」
アル「落下した瞬間に胸を強く打ったんですね?」
医師「ハイ」

ハイしか言わないし、目も合わせない。「人間より死体が好きなタイプかな☆デュフッ」と思いながら、死体検案料(15000円)+検案書発行手数料(5000円)をお支払いした。ググってみたら、死体検案料は地域によって異なり、5~10万ほどかかる場合もあるらしい。

その後「ヘーイ!お待たせ☆」とクレリさんと合流して、車で斎場へ向かった。そこで明日の葬儀の打合せをするのである。