実は夫のことをできるだけ
書かないようにしたい

実はコラムや漫画に夫のことを書くたびに「できるだけ書かないようにしたい」と思っている。
しかし、私が人間や社会との接点がなさ過ぎて、もはや私以外に書ける人間が夫くらいしかいないのだ。
それに、他人を勝手に描くと、それが後々虎舞竜になってしまう恐れがある。
だが、身内であれば大目に見られるだろう。

そういう「身内ならOK」というスイートな思想で虎舞竜15章まで行ってしまいがちなのが家族エッセイ界である。

だが、夫婦ユーチューバーであれば、隠し撮りでない限り、お互い合意でやっていることであり、漫画や文章のように、書き手の主観表現にならないので「勝手に事実と異なることを書かれた」といういざこざは起こりにくいのかもしれない。

しかし、エッセイでも動画でも常に「別れた時どうしよう」というのを考えてしまう。

普通、自分の離婚や破局を他人にご報告する義理はない。
しかし夫婦で活動し、それを応援してもらい、いくばくかの収入を得ていたとなれば話は別になってくる。

それでも報告義務はなく、何の説明もなく相方を等身大フィギュアに変えて活動継続しても良いのだが、視聴者の中には報告しないことを「隠された」「裏切り」として怒り出す人間もいるのである。

それに公表せずともずっと更新がなかったり、谷垣の抱き枕に話かけ続ける動画が続けば怪しまれ、メディアに「人気夫婦ユーチューバー メクソ&ファナクソ夫婦、離婚していた!」みたいな雑記事を書かれてしまったりするのだ。

よって、他人にあることないことを書かれるよりは、自ら公表してしまおうと、まだ離婚の混乱冷めやらぬ時期に「ご報告」という切腹動画をあげざるを得なくなってしまうのである。

離婚や破局は基本的に痛手であり、それを世間に公表しなければいけない上、それに対し離婚原因を勘ぐられたり「がっかりした」などと言われなければいけないのは、一般人にとっては荷が重い。

しかし、人気夫婦チューバーは、視聴者がむしろ「ご報告」を楽しみにしているのを理解している節があり、やたら夫婦二人が神妙なツラで横並びし「ご報告」「二人から皆様に大事なお知らせ」「決心しました」などのキャプションがついたサムネの動画を投稿しており、実際そういうサムネの方が伸びているのである。

そういう動画が離婚発表や解散発表かというと、どうでも良いご報告である場合の方が多い。
しかし、私もカップルチャンネルが「ご報告」動画をあげていたら「おっ!」と思った瞬間クリックしている自信がある。

トップは自分たちをゲスな好奇心で見ている視聴者がいるということを受け入れ、それを逆に利用するハートを持っているから、トップなのだろう。

「やっと妻が死んで自由になりました」というサムネの動画が800万再生のトップオブトップに君臨するのが家庭ユーチューバーの世界だ、とても生きていける気がしない。

Text/カレー沢薫