かつて夜のお店で働いていたときのことでした。席についた初見客の男性と話が盛り上がっている最中、しみじみとその男性客が言ったのです。
「君は、ちょっとだけ惜しいっていうか、あとちょっとどうかしたら、ものすごく可愛くなると思うんだけど……」
そこで湧いたのは「なんて失礼な!」という憤慨ではなく「正直かよ!」と妙に愉快な気持ちであったのは、「ものすごく可愛くなる」というのは「いまもそこそこに可愛い」という意味も含まれているようなニュアンスがあったことと、「めちゃ可愛い」「すごく綺麗」とまで言われたら、嘘くさいと感じてしまうわたしの自意識と、うまいこと重なったからだと思います。
あるときから、男性に口説かれる場合に、ルックスを褒められるよりも、やっていることや性格、仕事の成果といった“中身”のようなものを讃えられたほうが嬉しいと思うようになりました。むしろ「可愛いよね」とか「綺麗ですよね」なんて言われた際には「ああ、知ってるんで~!」と塩味たっぷりに返していた時期もあり、それは「適当にガワだけ褒めてんじゃねーぞこのヤロウ」という考えが根本にあったからです。いま思えばなんと穿っているのだろうと思うのだけど、とにかくわたしは、ルックスに惹かれて寄ってくる男は、蹴散らして当然という妙な気概を持っていた。
しかし、もちろんルックスを褒められるのがまったく嬉しくないというわけでもない。わたし自身、「もうちょっと可愛く生まれたかった」「美人といわれるルックスの持ち主であれば……」とも思っているところもあり、ゆえに可愛いとか綺麗とか言っていただけるのは、場合によってはすごく嬉しいことでもある。
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