香ばしいプロフ
先日、マッチングアプリで知り合った男と初めて会うことになったんです。とはいえ、私はアプリから恋愛関係に発展するような出会いを求めているわけではないので、なにを基準に会う男を選んだかと言いますと、ズバリ「今晩ヒマでプロフィールがなるべく嘘くさいヤツ」です。
こういったアプリには、イケメンの写真を無断使用して会うまではあたかも本人ぶったり、職業や年収を大幅に偽る輩なんかもいるらしく、私はそれらを逆に”どういう人がどういうつもりでやっているのか?”とても気になってしまったんです。
そんなわけで、せかせかとアプリ内をパトロールしていたのですが、極度に嘘くさいヤツは見つからず……。
というのも、私が今回利用したアプリでは、過去に写真の悪用や身分の偽装からトラブルとなったため、現在ではきちんと運営が本人確認を行なっているそうなんです。つまり、徹底した健全化によって私の楽しみは奪われたわけです。
「はぁ……もうアプリをアンインストールしようかな……」そんな言葉が頭に浮かび始めた頃、一人の男性のプロフィールが私の目に飛び込んできました。
「27歳 不動産勤務。福士蒼汰に似てるって言うの禁止ね?」
めちゃくちゃ香ばしいじゃないですか。おっと、めちゃくちゃ気になるじゃないですか。だって、福士蒼汰に本当に似てたら、それはそれで万々歳ですし、似てなかったら面白いし。なので、とりあえずその方を呼び出しました。が、しかし、そんなデンジャラスな男性と1対1で会うのはさすがに少し気が引けたので、私はグラドルの女友達を1人呼び出し、福士蒼汰さんにも男友達を1人連れてきてもらうことにしました。
本当に福士蒼汰に似ているのか?
夜20時、待ち合わせに指定された店は渋谷にある簡素なワインバル。私がハタチの頃にしょうもない明大生に連れて行かれた店と全く同じところでした。店の前で女友達と合流して、「今日はなるべく品行方正な普通の女の子を演じよう! 職業はアイリストとアパレル店員で行こう!」と作戦会議を済ませてから、いざ店内へ入ってみたのですが、福士蒼汰は見当たりません。しばらくの間、我々はキョロキョロと福士蒼汰を探しつづけましたが、一向に見当たりませんでした。
すると、一人の男性がこちらへやってきて「あ、あのこっちです!」と私たちに声をかけてきました。見た目はバンドマン系の男の子。全く福士蒼汰ではないけれど、渋谷、下北あたりに50体はいそうなごく普通の青年。
この瞬間、私の脳裏には「アレ? もしかしてコレなんのネタにもならない会じゃね? 一番つまんないやつじゃね? ヤバくね?」という言葉がグルグルと駆け巡りましたが、そんな心配はご無用でした。
突然、「え〜! 思ってたよりも可愛い子が来たんだけど! ハハッ! レベル高っ! ハハッ」と笑いながら近づいてくる男が現れ、私は「え? なにコイツ! 下世話なミッキー?」と咄嗟に思ってしまいましたが、この声の持ち主こそが「福士蒼汰に似てるって言うの禁止ね?」さんでした。私たちを席まで案内してくれた青年は「福士蒼汰に似てるって言うの禁止ね?」さんの大学の後輩。ここから地獄の2時間が始まりました。
あ、今この文章を読んでくださってる皆さんが最も気になっていることって、おそらくこの「福士蒼汰に似てるって言うの禁止ね?」さんが、”実際に福士蒼汰に似ているのか否か”だと思うのですが、当たり前に似ていません。朽ち果てたナスみたいな男でした。
しかし、「福士蒼汰に似てるって言うの禁止ね?」という強気な文言を朽ち果てたナスの分際でアプリのプロフィールにまで書いてしまうということは、きっと誰かに言われたことがあるのでしょう。田舎の目の悪いばあちゃんとか、悪意のあるキャバ嬢から言われた言葉をそのまま鵜呑みにしたのでしょう。純粋な心の持ち主ですね。まあ、福士雑草汰(ふくしざっそうた)という名前で『おもしろ荘』にでも出演すれば、それなりに炎上できただろうな〜って感じの顔をしていました。
- 1
- 2