それぞれの『ホリデイ』
ナンシー・マイヤーズという映画監督がいます。ハリウッドでは近年少しずつ女性監督が増えてきましたが(もっと増えてほしいですが)彼女は御年70歳。脚本家としてのキャリアを含めるとなんと40年ほど一線で戦ってきた人です。今でこそガールズ・エンパワメントは映画界でもホットなワードになっているものの、当時はカメラの前でも後ろでも女性は脇役になることが多い時代でした。
マイヤーズ監督がすごいのは軽口なロマンスとコメディの文脈を使ってずっと等身大の男女の対等な関係や相互理解を描いてきたところ。今だからこそもっと観てもらいたいなーと思う作品がいっぱいなのです。
どうでもいい話ではないのですが、オタクが炸裂してしまいました。そんなマイヤーズ作品の入門編としてもオススメなのが超王道ロマコメの『ホリデイ』です。
主人公はイギリスに住んでいるアイリスと、アメリカに住むアマンダ。といっても彼女たちが一緒のシーンはほぼありません。恋に破れた二人が気分転換にネット上でホーム・エクスチェンジ(旅行などのために一定の期間だけお互いの家を交換して住むこと)をすることになり、それぞれの土地で過ごすホリデイシーズンのお話です。
まずもう冒頭からアイリスのモノローグがかなりの強火です。
「大抵のラブストーリーは愛し合うふたりのもの。でもそれなら私たちのストーリーは?報われない、一方的な恋に落っこちた私たちはどうすればいい?私たちは一方的片想いの犠牲者なのだ!」
「この恋は私の人生の中の暗黒時代。それもこれも全部私を愛していない、これからも愛さない彼への呪われた恋心のせい!」
散々思わせぶりにふるまっては自分を都合よく使ってきた同僚。愛されてないなんてことは分かってたけど、まさか突然結婚を知らされるとは…。
新聞社勤めだからか言葉を尽くして大仰に表現するアイリスですが、気持ちは分かる。抱きしめたい。
『タイタニック』のケイト・ウィンスレットらしい熱演で思いきり肩入れしたくなるキャラクターです。
対してもう一人のヒロインであるアマンダを演じるのは当代きってのロマコメ・クイーン、キャメロン・ディアス。でもバリバリのキャリアウーマンなんてこのときは珍しいなあと思った覚えがあります。
映画の予告編をつくる会社をやっているアマンダは自分の人生に対してもついつい俯瞰してしまう。
すぐ結論を出したいし、タイミングを見誤りたくない。更にぶっちゃければ、傷つきたくない。
それを徹底して生きてきたもんだから、恋人に浮気されても、今更涙も出ない。勢いよく別れを告げるのです。
そんな二人がそれぞれの旅先で出会う男性陣も魅力的で、ザ・色男なジュード・ロウはもちろん、ハチャメチャなコメディでお馴染みのジャック・ブラックも抑え目ながら自然な演技でときめかせてくれます。
「いい人止まりでモテない」と言うのは微妙な誤解で、本当にいい人は本当にいい男だしいい女だよねーと思う今日この頃です。「いい人だけど…」は大体、オブラートです。(※個人の感想です。)
たった2週間環境を変えたくらいで、人生が大きく変わることはなかなかありません。
でも環境を変えたら出会いがあって、出会いがあったら自分を変えるきっかけにもできて、もしも自分を変えられたら、人生が少しは変わるかも?
そんな甘すぎず辛すぎない温かさがほしいときにぴったりな一本です。
いかがでしょうか。
映画は気に入っても気に入らなくても自分で選ぶ楽しみがあるものですが、ちょっと何を観ようかなーと迷ったときは私のオススメも候補に入れていただければ幸いです。
TEXT/気絶ちゃん