恋愛にも“仕事のプライド”が関わってくる時代
そんな『ハケンの品格』の中で、恋愛をめぐる興味深いセリフが飛び出すのが第4話です。
派遣差別主義者だったはずの東海林が、春子に恋心を抱いてしまい、「俺のこと、好き、嫌い?」とアタックするシーンで、春子はこう答えます。
「好きとか嫌いとかじゃないんです。すぐやめる派遣だから誘いやすい。軽く誘ってこじれたら切り捨てる。そういう正社員を私は死ぬほど見てきました」
派遣会社の社長・一ツ木(安田顕)のセリフにも「派遣のトラブルで一番多いのは時給の問題で、2番目に多いのが正社員との色恋沙汰」とありますが、たしかに正社員男性に誘われた派遣社員女性が恋愛トラブルにもつれこむパターンって、当時から周りでよく聞く話だった気がしませんか?
社員同士であれば、男女間の対等な“恋愛感情”の問題で済むところが、正社員と派遣社員の恋愛では、“派遣だから軽く見られた”という別のプライドまで傷つけられてしまうわけです。
これまでの「恋愛ドラマ」には決して描かれなかった問題ですが、劇中ではほかにも、本来アルバイトや新入社員がやるべき仕事まで派遣社員の女性にやらせる…といった問題が出てきます。
奇しくもこの年は男女雇用機会均等法が改正された年でしたが、「女性差別」は「派遣差別」に形を変えて生き残っており、働く女性をいまだに「お茶くみOL」のように考えている男性が依然として存在していることを、このドラマは指摘しています。
女性が自己実現の手段や、アイデンティティのよりどころとして、“恋愛”や“結婚”をする必要はもはやなくなったといっていいでしょう。
しかし、社会のしくみや男性の意識は、まだまだそこに追いつけていないのかもしれませんね。
Text/Fukusuke Fukuda
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