第9回: 『ハケンの品格』が描いた恋と仕事のジレンマ

今回のテーマは、篠原涼子がスーパー派遣社員を演じ、非正規雇用が増えていた当時のリアルな就労状況を描いて話題となった『ハケンの品格』(2007年)です。

働く女性をハマリ役にした篠原涼子

By MJTR
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 みんな、どう? 最近、恋の契約更新してる?

 こんにちは、契約も派遣もない恋の自宅警備員・福田です。
今週も往年の恋愛ドラマをあえて見直し、勝手に深読みしていきましょう。

 今回のテーマは、篠原涼子がスーパー派遣社員を演じ、非正規雇用が増えていた当時のリアルな就労状況を描いて話題となった『ハケンの品格』(2007年)です。

 このドラマの主人公・大前春子(篠原涼子)は、難関資格を26個以上取得し、与えられたノルマを完璧にこなす時給3,000円のスーパー派遣社員。
契約は3ヶ月、更新はしない、残業・休日出勤はしない、という条件を貫き、クールな態度で正社員の上司にも物おじせずに主張します。
その性格から、派遣差別主義者の正社員・東海林(大泉洋)らとたびたび対立しますが、持ち前のスキルを武器にさまざまなピンチを乗り越えていく、というストーリーです。

 このドラマ、厳密には「恋愛ドラマ」ではありません。
劇中には、互いを認め合うようになった春子と東海林の間に、恋の進展を匂わせるような描写もありますが、それはあくまで物語のスパイス程度。
しかし、このドラマには恋愛も含めた、働く女の生き方にまつわる示唆的なセリフがたくさん出てきます。

“企業での出世”から“個人のキャリアアップ”の時代へ

 このドラマは、超人的なスキルを持ったスーパー派遣社員・春子という現実離れしたキャラクターを描くことで、もはや正規雇用が当たり前ではなくなった社会でどう生きるかを、逆説的に問いかけています。

「派遣が信じるのは自分と時給だけ」
「働かない正社員がいてくれるおかげで、私たち派遣はお時給をいただけるんです」
「会社は労働力の切り売りで私たち派遣を短期間雇っているだけです。優しくしたり笑ったり、そういう馴れ合いは正社員同士でやってください」
「かっこよく会社をスパっと去るのは派遣の専売特許です。社員なら社員らしく会社にしがみついてください」


 『ハケンの品格』が理想モデルとして描いたのは、終身雇用・年功序列といった旧来の“会社に身を捧げる”働き方のアンチテーゼとして、スキルやキャリアを身に付けた“個人”が社会を渡り歩いていくという生き方です。

 この生き方は、のちに転職を繰り返してキャリアップをするという考え方や、若くして起業して成功することを夢見る考え方を生み出しました。

 その一方で、契約社員や派遣社員といった非正規雇用の立場では、企業の経費削減のために安価な労働力として食い物にされてしまうだけだという実態も、劇中にはきちんと描かれています。

この理想と現実を描くバランス感覚が、このドラマの優れていたところでしょう。