エロくて見栄っぱりな男心が分かる「恋愛に役立つオススメ作品」/中川淳一郎

オススメ本

今回のテーマ「恋愛偏差値が跳ね上がるオススメ作品」
今は映画や漫画、小説を楽しむ絶好のチャンス。「これさえ押さえておけば、恋愛のイロハが学べる! 男の心理がわかる!」というオススメの作品を教えてください!

男を理解できる映画2本

これについては男がいかにバカか、を知ることができる作品に触れるのがいいと思います。男の生態・考えていることを知ることにより、「攻略法」が理解でき「恋愛偏差値」は跳ね上がることでしょう。

まずは完全にB級映画なのですが、トム・クルーズの『リスキー・ビジネス』(邦題『卒業白書』=1983年)という映画はいいです。エロくてバカな高校を卒業したばかりの男を演じるトムが、怪しげなエロビジネスに参入し、数々の危機に直面する。

『卒業白書』

今やハリウッドの代表的スターで『ミッション・インポッシブル』のカッコイイ姿が印象的なトムですが、この作品ではワイシャツにブリーフの姿で踊ったり、年上の女性に手玉に取られたりとカッコよさのかけらもない。いや、高校を卒業したばかりなのにすさまじい行動力なのですが、考えていることが「カネとオンナ」というだけで、私なぞ「これぞ男を理解するのに最適な映画!」なんて今でも思っています。

あとは『Revenge of the Nerds』(邦題『ナーズの復讐』=1984年)もいいです。内容は、アメリカの大学のスクールカーストを描いています。基本的にアメリカって「体育会系=エライ、カッコいい、イケてる!」ということになっていて、彼らは「Popular」と呼ばれます。一方、コンピューターが好きなようなオタクは「nerd(うすのろ、ダサい、みたいな意味)」と呼ばれます。今では「ギーク」という言葉もありますが、「nerd」の方がよりダサさが際立ちます。

『ナーズの復讐』

これは、カーストの下位に位置するnerdの連中が、いかにしてPopularなイキがった連中に対してギャフンと言わせるか、という話です。気弱で徹底的にダサいけど、恋心もあるような男の悲哀が描かれています。思えば、IT系企業の大躍進をこの作品は予言していたのかもしれませんね。そうした視点から見ても面白いですし、いかに男が自信がないか、そしてうじうじするか、女が好きか、といったことを知れます。

東海林さだお氏が描くモテたい男たち

さて、若干「えっ? それを紹介するの?」と思われるかもしれませんが、私が紹介したいのは漫画家・東海林さだお氏(82)が若き日に描いた漫画の数々です。いや、高齢になってからのでもいいです。昔の作品を読むと、今の時代では完全にポリコレ的にアウト! なモノが多いですが、そのときの時代性はあるわけですし、男の本性というものは徹底的に描かれています。

基本的に東海林氏の漫画に登場する男は「モテないからモテたい」「モテる男は死ね」「金持ち男は死ね」と考えています。林真理子氏との対談でもなぜ、そこまでモテない男の描写をするのか、的にするのか、と聞かれ「だってモテたいんだもん」と答えたときは「やっぱり」と共感するとともに、これだけの大御所でもそんな気持ちはあるんだな、と思いました(ちょっとスイマセン、このエピソード、ハッキリとは覚えていないのですが、文献もあたれず、若干あやふやですが概ね合ってます)。

たとえば『新漫画文学全集 【第3巻】衝撃篇』の中には、『虐げられた人』という作品があります。この『新漫画文学全集』は名作文学を東海林氏なりに現代(執筆当時=1968年~1969年)に合わせたもの。『虐げられた人』の主人公はタクシーの運転手です。さすがにコマをここで紹介するわけにはいきませんが、展開を解説します。

ボーナスが出ないことが分かった運転手は、あろうことかスピード違反で警官から罰金を取られてしまいます。「コラー スピード違反だぞ」と言われ、「すみません ボーナス安いもんでつい……」と言い訳をすると警官も「こっちだって安いんだー コノー」と泣き顔に。気を取り直して運転を再開するとアベック(当時はカップルのことをこう呼んだ)がタクシーを拾い、後部座席で寄り添う2人。男は「千駄ヶ谷」と言います。

東海林氏の作品では、「千駄ヶ谷」が時々登場しますが、これは当時ラブホテルが千駄ヶ谷にいくつか存在したため、エロイことをする男女の象徴として登場します。

女が「ヒロシさんはボーナスいくらもらった?」と男に聞くと「四十万」と言います。女は「まァたったそれっぽっち? わたし五十万よ」と言う。男はそれでもニッコリし、運転手は涙を流して「クソー」と運転席で怒ります。すると再びスピード違反をしてしまい、同じ警官から捕まってしまう。

前回同様に、ボーナスがお互い安いというやり取りをした後、「それよりね このお客ね… 四十万と五十万もらったんだって」と警官に言う。すると警官は涙を流し、後部座席の濃厚接触をする2人に「コノー」と言う。そして、運転手には「かまわないからうんとスピード出してイジワルしちゃいなさい ガンバレよーオレの分もな」と泣きながら運転手を送り出す。

すると後部座席の2人はもう乳繰り合ってしまい、女は気持ちよさのあまり吐息を出すほどに。運転手はひたすら「クソー」と言いつづけ、タクシーが飛んだり川の上を突っ切ったり無茶苦茶な状態になります。

何が何やら分からないかもしれませんが、東海林氏の作品に通底するのはごく一般的な小市民的男の生態を描くことです。男性器のサイズを気にし、妙な見栄を張り、常に女性とエロすることばかり考える「小物」「セコイ」「バカ」といった要素がありつつ「どこかいじましくかわいげがある」ごく普通の男を描いています。この作品では、タクシー運転手と警官の共感し合う様がポイントです。最初は対立するも、ボーナスがお互い少ないことを知ると、金持ちのモテ男に2人して共同戦線を張って対抗するわけですね。

世の中の男ってのは大抵こんなもんだと思っています。私もその一人です。東海林氏は大ベストセラー作家ですし、お金もあるしモテないワケでもないとは思います。しかし、学生時代は間違いなくモテなかったはず。そのときのルサンチマンを作品にぶつけまくっているのです。