プライドが嘘を呼び、その嘘が精神を崩壊させていく
一人の元・金持ち女が狂っていく。その様を容赦なく映し続けているのに、なぜこうも笑えてしまうのでしょう。
本作はジャスミンの過去の裕福な日々と、現在の貧乏で行き詰まった日々を交互に映し出す。
それ故に夫・ハルとの幸せな生活と、歯医者の受付であくせく働くジャスミンとの対比が痛々しく、切なく感じられる。
ウディ・アレン、ちょっとこれはイジメに近い描き方です。
描き方によっては全編シリアスなムードになりかねないのに、無職のジャスミンがドワイトと結婚するために「インテリアデザイナー」と身分を偽り、彼からの電話を取る時も「すぐに取ったら待っていたように思われる」「忙しいように見せかけて」と、自らを演出する。
そもそも“ジャスミン”も偽名。華やかな世界で生きるためのプライドが嘘を作り、その嘘が彼女の首を締めていく様が観ていて辛い。幸せになりたいのはすごくよく分かる。だからこそ、その失敗に笑いながら同情してしまう。
本当は一切笑えない、恐ろしい物語って事を理解しながら。
意地が悪い人が作った、意地の悪い人の物語
全身ブランドで身を包み、質素な生活をしている人を心の奥底で蔑んでいる。
「自分は周りと違う。ここは自分の居場所じゃない」
根拠なき自尊心が友情、同情、愛情全部を台無しにする。
ジャスミンはもっと素直になればジンジャーとも、その彼氏とも、周りの人たちとも仲良く生活し、新たな人生を歩むことだってできたはず。こんな人は現実世界でも多くいるのでしょう。
ウディ・アレンはそんな人に恨みでもあるかのごとく、とことんプライドの裏側を追求していきます。
ある人が言っていた。プロフィールの趣味の項目に「人間観察」って書く人は性格が悪いって。
ウディ・アレンの鋭い人物描写は間違いなく人間観察の結果です。だから性格は悪いのでしょう。それでも、ここまで一人の女性の絶望を容赦なく切り取り、その上で妙な愛しさも感じさせるのは性格云々の話じゃない。意地の悪い人が意地の悪い人を描いたらどうなるか?
そういった観点でも一見、いや、二見三見の価値があります。