フランクの優しさが尋常じゃない!

 ヒゲ面。鋭い目つき。脇腹の血。この3つと“脱獄囚”というステータスが邪魔しているけど、こんなに優しい男はいないってくらいフランクの温かさに癒されるのです。
最初は恐れながら接していたアデルの心が解かれていき、ヘンリーも慕っていく様がとても自然。特にパイを焼くシーンは、中の具にフランク自身が詰まってるんじゃないかと思えるくらい温かい。

映画『とらわれて夏』 MMXIV Paramount Pictures Corporation and Frank’s Pie Company LLC. All Rights Reserved.

 実の父より父親らしく、実の脱獄犯より脱獄犯らしくないその献身的な愛にアデルが惹かれていくのもよく分かります。
重くて深いトラウマを抱えたアデルに、愛を再び取り戻す救世主。彼自身も殺人罪という知られざる真相を持ち、世間が恐れる顔と素顔とのギャップが激しい。
彼がヒゲを剃ったとき、その意外にも爽やかな顔にドキッとしてしまう。こんなに優しい脱獄囚がいるならウチにも来て!って思う女性急増でしょう。

本当の意味の牢獄とは?

 この映画にしかない独特な時間と空気は、まずオープニングから掴み取れる。
木洩れ陽が差し込む田舎道の景色。それはまるでアデルの心に差し込む光ように、ごく自然に、優しくて穏やかな時間とともに流れていくのです。
これはまさにフランクが差し出した光。包み込むような優しさに触れ、アデルは囚われている精神的牢獄の鍵を開けて、外の世界に連れ出してもらう。

映画『とらわれて夏』 MMXIV Paramount Pictures Corporation and Frank’s Pie Company LLC. All Rights Reserved.

 本当の善人とは、悪人の顔をしているのかもしれない。
世間は彼を許さない。でも、本当は世間なんてどうだっていい。本物の愛さえ見つけられれば、人は誰だって心を解放できるでしょうから。
木洩れ陽の中に希望を見出だすアデルの行く末は、決してひどいものじゃない。

 アデルが生きている世界こそが牢獄であり、フランクはそれを理解していた。これ以上にかっこいい救いの手はないです
ヘンリーがやがて成長し大人になるように、かつて一緒に作ったパイは腐ることなく温かみを残していく。その情景が描かれる時、映画は深い感動に包まれます。