イタすぎるアラフォー女の帰省はカン違い連続
『ヤング≒アダルト』
最後に紹介するのはテーマが重い前二作とは打って変わり、アラフォー女の珍道中を描いた『ヤング≒アダルト』。いつまで経っても成長できない女の話です。
しかし、テーマが軽いからといって気楽に観られるとは限らない……。
【簡単なあらすじ】
37歳のメイビス(シャーリーズ・セロン)はバツイチで、彼氏ナシ。自称・作家。本当はゴーストライター。唯一の楽しみはアルコールと愛犬。そんな彼女にある日、高校時代に付き合っていた元恋人の妻からメールが届く。
パーティーに招待されたメイビスは故郷・ミネソタに戻る。なぜかそこで元恋人とヨリを戻そうと企み、あの手この手でオトそうとする。
かつて故郷の学園のマドンナだったメイビスだが、すでに20年近くの月日が流れているのに気付いていない。唯一心を開けるのは、かつて学校でゲイと噂されていたオタクのみ。
故郷を「魚臭い町」と罵り、「自分は特別」だと思い込んでいるメイビスに幸せは訪れるのか――?
この女、何考えてんねん……。
とてもじゃないけど、メイビスについていけません。
元恋人をオトすためにカン違い行為を連発する。胸元パックリ開いたドレス。悪女を匂わすセクシーなメイク。ネイルサロン通いに余念がない。
でも、そこは田舎町のレストラン。言うなれば、地元の白木屋に六本木のクラブに行く格好で登場する場違い感。ある意味新しいタイプの居酒屋です。しかも、妻子ある元恋人を狙うなんて……。
いまだ自分はヒロインで、みんなの天使で、イケてるとカン違いしている。
シャーリーズ・セロンは誰がどう見ても美人だから、この映画は厄介。たしかにメイビスはキレイだから、一見ちょっとクールな女性のお話なのかなって思ってしまう。だけど、次第にどんどんメッキが剥がれてボロが出てくる。何かおかしいぞ?
……あっ、こいつイタイ!
このスリルは、あまり他の映画では味わえません。
映画の冒頭、車の中でティーンエイジ・ファンクラブの曲を再生するのはなぜかテープ。MDでもCDでもiPodでもない。いつの時代のオープニングなんだよ! と、次第にメイビスの“ズレ”を感じていくのです。
イタイって、自分では分かりづらい?
自分自身をカン違いって自覚するタイミングって?
メイビスは本編の約8割が終わった段階で、ようやく真実を目の当たりにする。だけど、現実ではどうでしょう。一体何人のイタイ女が、いつ自分がイタイことに気付くのでしょうか?
メイビスはただの分かりやすいイタイ女ではない。実はその分かりやすいイタイ女って意外と少なくて、むしろ分かりづらいイタイ女のほうが多いのかもしれません。外見はそこそこオシャレだから誤魔化せる。だけど、目に見えない内面がそれに伴っていないからこそ“ズレ”を感じる。
セロンが演じるのはいつまでも過去の栄光にしがみ付き、変化する勇気がない女。『スタンドアップ』とは真逆のキャラクターです。
ずっと時間が止まっている。学生時代に激しいイジメを受けて身体に障害を持ち、やむを得ず時間を止めることになったオタク。そんな彼とかつて学園のマドンナだったメイビスが心を通わせることになる。二人だけは永遠に10代。こういった皮肉な描写が本作の毒であり、笑えるけど笑えないのです。
セロンは本作ではある意味、美しさの無駄遣い。でも、その無駄な部分が、観る者すべてに訴えかけてくる。この美しさは腐ることなく、無駄にしてはいけないと思えるからです。
『ヤング≒アダルト』DVD
価格:1,500円(税込)
発売元:パラマウント ジャパン
以上、女優縛りの三本でした。
ここまで幅広い顔を持つ女優は少ないと思います。シャーリーズ・セロンは元々CGのように美しいですが、もはやまるでCGのように変幻自在にその顔を操ります。
レンタルビデオ屋は女優ごとにコーナーが区切られていないところもある。この三本は「ドラマ」、「サスペンス」、「ドラマ」と大雑把にジャンル分けされていて、見つかりづらい。女優ごとに作品を見比べてみても面白いです。
勝手に「シャーリーズ・セロン」ってコーナーを作りたくなります。
ちょっと魔がさしたらすぐに甘いものに手を伸ばしてしまうすべての女性に、この女優を知ってもらいたいです。
13kg太る勇気と13kg痩せる努力は、女優じゃなくても尊敬しちゃうものかと……。
Text/たけうちんぐ
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