数年前にテレビで観た、米アカデミー賞の中継が忘れられない。
会場のモニターには、怪物のような太った女。そして、その後に映る美しい女優。体型も顔もまるで違う二人が、同一人物であることを知った衝撃といったら……。
モデル出身の抜群なスタイルを自ら打ち壊す。13kg太り、そしてまた痩せて元通りになった。すべては役のため、映画のため…。
プレゼンターが壇上でアカデミー主演女優賞の受賞者の名を告げる。
「And, the Oscar goes to……」
その答えは分かりきっていた。
「シャーリーズ・セロン!!」
映画では連続殺人鬼を演じた彼女は、拍手喝采の会場では光り輝いていた。
醜い女、美しい女。それはどちらも、彼女です。
ハリウッド、そして世界中どこを探しても見当たらない。“女”を賭けて挑む女優。彼女の生き様すら垣間見える、傑作映画三本を紹介します。
全米初のセクハラ訴訟で勝訴するシングルマザーの痛快!勧善懲悪の法廷映
『スタンドアップ』
一本目は、男ばかりの鉱山で働くシングルマザーを描いた女性監督ニキ・カーロによる『スタンドアップ』。醜悪なセクハラを受けながらも、勇敢に立ち向かっていく主人公をセロンが演じます。
【簡単なあらすじ】
幼い子ども二人を持つジョージー(シャーリーズ・セロン)は夫の暴力から逃れ、生まれ故郷のミネソタの町にやって来る。10代でシングルマザーとなって出戻ってきた彼女に、周囲の目線は冷たい。それでもジョージーは自分の力で子どもたちを養うため、鉱山で働くことを決意する。
しかし、そこで働く男たちは女が鉱山で働くことが面白くない。彼らは卑猥な悪戯と暴言を繰り返し、ジョージーはそれに反発する。さらに子どもたちまで虐められ、同僚の女性たちは状況が悪化することを恐れて泣き寝入りしてしまう。
耐えられなくなったジョージーは一人勇気を振り絞り、セクシャルハラスメント訴訟を起こす――。
セクハラ男どもの下衆い笑顔を法廷でぶち壊す!
女性からしてみると怒りが込み上げる描写ばかりです。
男どものセクハラが本当にひどい。特にジョージーが高校生の頃に交際していた元カレは下劣。ジョージーを無理矢理押し倒して襲ったのに「向こうから誘った」だなんて。腹が立ってくる。
簡易トイレに入った同僚に外から揺らされ、挙げ句の果てに、トイレをひっくり返されるシーンは見てられない。
下ネタいじり。陰湿なイジメ。下衆すぎるセクハラ描写のオンパレードで、すべての女性が自身の体験と照らし合わせて舌打ちできる映画です。
そして、当然それでは終わらない。怒りのゲージが満タンになった時、ついにジョージーが立ち上がるのです。今すぐに仕事を辞めたい。だけど子どもを養わなければならない。傷付けられたものがあまりにも大きい。葛藤と苦悩を背負いながら、法廷に立つ姿のかっこ良さといったら。
群れのルールに従う田舎特有の環境すらぶち壊してくれる。その勧善懲悪っぷりは観ていて実に爽快です。
セクハラに関与する男どもには全員正座して観てほしい。み○もんた必見の映画です!
たった一つの勇気が世界を変える?
様々な角度から見た“女”の顔がある。仕事に生きる女。子どもを持つ女。そして、誇りを持って生きる女。それらをすべて体現するのがシャーリーズ・セロンの仕事です。
あらゆる側面の女を描いてジョージーを立体的にする。実話を基にした映画だからこそ、演じることへのプレッシャーはあったでしょう。
社会派映画の顔をしているけど、結果として残るのはジョージーの笑顔であり、セロンの魅力なのです。
物語が進むにつれてジョージーの過去が明るみになっていく。
なぜ、彼女は10代で子どもを産むことになったのか。なぜ、彼女の元カレが執拗に虐めてくるのか。すべてが明るみに出た時、『スタンドアップ』という邦題の意味を初めて理解できる。
この裁判は瞬く間に全米に広がり、女性への差別に問題提起をし、女性の権利を一気に拡大させた。それをどこにでもある田舎町で、どこにでもいる一人の母親が起こした。
子ども、生活、そして女としてのプライド。これらの守るべきものさえあれば、たった一人でも戦うことができる。セロンが演じるジョージーは女の勇気そのものです。
『スタンドアップ(特別版)』DVD
価格:1,500円(税込)
発売元:ワーナー・ホーム・ビデオ