世界は結局、男と女でできている

トゥ・ザ・ワンダー テレンス・マリック ベン・アフレック オルガ・キュリレンコ レイチェル・マクアダムス ハビエル・バルデム ロングライド 2011 GK Films, LLC. All Rights Reserved.

 ふたりが愛しあう日常は突然店ごと爆発し、それから数ヶ月で敵対する関係に…。
普段、恋愛でこんな経験はありえない。いや、敵対することはあるかもしれないけど、まさか殺し合う関係になるなんて。ありえないことを平気で実現させるのが、民族間の紛争。それを痛感させる、目を背けたくなるような残酷な描写が容赦なく現れる。
愛しているはずのダニエルを、アイラが激しく拒絶するセリフがある。

「君は僕の所有物だと言ってあるから、大丈夫だ」

 こんなの、百年の恋も醒めてしまうでしょう。男の所有欲と独占欲、身に覚えのある人が多いはず。そこに民族間の争いが挟まれると、男のエゴはより一層明確に描かれる。
国家権力の支配から解放してくれるはずの彼氏が支配をしてくる。この絶望は計り知れない。紛争を描きながら、そこにありふれた男女の姿を描いているから感情移入できる。アイラは女の象徴として描かれ、そして彼女が“女の武器”を用いて自ら動き出すと、他の映画とは一味も二味も違う壮絶な展開が始まってしまう。

 すべては結局、男と女でできている。その真実は、ダニエルの欲求とアイラの願望との食い違いから受け取れる。
男女の生み出す感情が戦争を左右してしまい、また逆に戦争によって左右されてしまうのです。

この映画の『空白』に、観る者は何を描く?

トゥ・ザ・ワンダー テレンス・マリック ベン・アフレック オルガ・キュリレンコ レイチェル・マクアダムス ハビエル・バルデム ロングライド Photo Credit Dean Semler. (c) 2011 GK Films, LLC. All Rights Reserved.

 主人公の男女二人は、互いの気持ちの多くを語らない。どれほど想いを募らせ、苦しみを耐え抜いてきたのかをセリフでは言い表さず、観る者に想像させる。
その証拠に劇中、アイラとダニエルが薄暗い部屋に飾られる絵画を見回るシーンがあり、そこに一部分が空白になっている絵が登場する。

「空白を強調しているのよ。あえて描かないことで」

 意味深なアイラのセリフ。これは映画自体に言えることでもあるのです。
反戦を訴えかける映画は「戦争は絶対にやってはいけない!」なんて口に出さない。芸術作品に込められたメッセージはいつだって、観客がその空白の中から汲み取り、イメージする。それは映画を飛び越える。
この先の現実の未来と、女が女としての尊厳を保ち、平和に生きていける世界への想像。それが決して空想でないことを祈りたい。

 性暴力と支配に溢れた日々の中、アイラとダニエルはどのように愛し合ったのか。なぜ、アンジェリーナ・ジョリーはこの映画を作ろうとしたのか。それを想像することで、現実を少しでも変えられるかもしれない。
そんな希望が、本作の絵画の『空白』の中に描かれているのでしょう。