ソファに座る距離こそが、心の距離
カウンセリング中、ケイとアーノルドが座るソファ。
最初は端と端に座り、他人のように白々しい二人。“宿題”を実践していくうちに、その座る位置の距離がどんどん縮まる。また離れる。で、近づく。
それはまるで心の距離を表しているかのようで、視覚的にセラピーの成果が見られる。
このもどかしさは存分に笑えるはずなのに、どこか笑えない。それは、二人が真剣だから。どこにでもいそうな夫婦だから。
心も身体も分かち合おうと妻が努力しても、夫は完全にシャットアウト。バーナード医師に対しても疑いの目でかかり、そこに“愛”なんて存在しない。いや、させたくないのかもしれない。
変化に対して頑固な男と、愛に対して誠実な女が、そこら中にゴマンといる男女の姿に思えるからです。
本作のタイトル通り、“31年目の夫婦げんか”をしたときに初めてアーノルドがケイの気持ちを知る。それからの変化は劇的。
まるで童貞だったアーノルドがオシャレなジャケットを羽織り、いつもゴルフ番組にしか熱中しなかった彼がケイに夢中になる姿は、ちょっとズルイ。ギャップがかっこよすぎる。もはやソファがひっくり返るほど、夫婦の間に希望の光が差し込むのです。
それぞれの心と身体の距離が縮まることが重要に描かれている。
決して“口でする”ことやセックスが目的地ではない。
思うことと、実行すること。この一致こそが感動を呼ぶのです。
結婚≠目的地 夫婦の新しいカタチ
アーノルドとケイの行く先は、誰もが望む結婚生活なのかもしれません。
二人は60代にして“二度目の結婚”を目指すために、離れたりくっついたり。まるで10代の恋みたい。それこそ、童貞と処女のように初々しいのです。
結婚が一度限りと思うから、上手くいかないのかも。目的地に辿り着けば、あとはそこに居座るだけ。
でも、まだまだ次の段階がある。結婚は目的地ではないと思えたら……。
この映画は、そういった新しい夫婦の形を提示しているようにも思えます。
31年間の愛情と不満を一週間に凝縮したハードなカウンセリングに、テキパキと応えられる男女はいるのでしょうか。
どれほど愛し合っていても、いつか互いに向き合えない日が来るかもしれない。
そのときには、バーナード医師の代わりにこの映画が必要になるのかも?
2013年7月26日(金) TOHOシネマズ シャンテ、新宿シネマカリテ他全国順次公開
監督:デヴィッド・フランケル
キャスト:メリル・ストリープ、トミー・リー・ジョーンズ、スティーブ・カレル
配給:ギャガ
原題:Hope Springs/2012年/アメリカ映画/100分
Text/たけうちんぐ