困難にもめげずに生きていく、夫婦の絆とは―― 『ぐるりのこと。』
最後に紹介するのは、橋口亮輔監督の『ぐるりのこと。』。
1990年代初頭から現在まで様々な事件の凶悪犯を描く法廷画家の夫と、子どもを亡くしたことで絶望する妻との絆を描いた感動作です。
ストーリー
1993年、几帳面な妻・翔子(木村多江)と法廷画家のカナオ(リリー・フランキー)は子どもが産まれる喜びを噛み締めていた。しかし子どもは亡くなってしまい、翔子はその悲しみから心を病む。
二人は支え合い、少しずつ暮らしに平穏を取り戻していく――。
「そのままでいいじゃん」
夫婦で支え合って生きていくのは、決して楽じゃない。
お金、生活、老後。本作は夫婦間におけるあらゆる問題を描いているが、だからといって全く重苦しくない。
リリー・フランキー演じるカナオの、ちょっぴり女好きで軽いキャラクターに癒される。
自堕落的でだらしないけど、こういう男は絶対に必要。特に翔子には。その説得力は、激しく感情をぶつける翔子に投げかけるカナオの言葉にある。
「ちゃんとできなくたっていいじゃん。そのままでいいじゃん」
几帳面であるが故に心を病んでしまった翔子にとって、この言葉がどれほど救いになるのだろう。
お互い、一人では足らない。
几帳面&自堕落的な二人が一緒になったからこそ、支え合って生きていく姿が眩しく見えるのです。
恐ろしい凶悪犯と、美しい景色――時代が変わっても、ずっと変わらないもの
カナオが法廷画家として足を運ぶ裁判には、誰もが知っている事件をモデルとした犯人が次々と出廷する。
宮崎勤の連続幼女誘拐殺人事件、オウム真理教の地下鉄サリン事件、宅間守の小学校無差別殺傷事件。
これらの凶悪犯を描き続けるカナオの手は、絵画教室では美しい花を描く。それが何よりも救いなのだ。
時代が移り変わり、その都度恐ろしいものに触れても、常に美しいものに憧れる。
カナオが描いたまだ見ぬ子どもの絵を、翔子はどう感じたのだろう。
イチョウ。木々。青い空。映し出される景色の数々。季節が変わり続けても、筆を握る手、相手を見る目は変わらないと言っているかのように。
夫婦でいることは大変だけど、それ以上に一緒にいることの喜びを噛み締める。もう、それだけで十分なのだ。翔子には、カナオが必要。
“一生”だとか“永遠”だとか、“幸せ”なんて大袈裟な言葉なんて、この映画には必要ない。
すべてを凌駕するのは、一緒にいる心地よさ。
それを感じられたとき、ぐるり。と周囲を見渡した景色が美しく思えるはずなのです。
『ぐるりのこと。』DVD発売中
価格:5,040円(税込)
発売元:バップ
以上、結婚する前に観ておきたい映画三本でした。
どんなにイケメンでも美女でも、時が経てば太る。ハゲる。しわしわになる。 “今”は一日ごとに更新する。季節のように一年周期で戻ってはこない。
結婚は恋愛の延長線上にはないのかも知れないし、永遠なんてないに等しいかも知れない。
だけど、今燃え上がる恋の熱情は否定できない。だからこそこれらの映画を観て、未来永劫愛し合いたい人と結婚における絶望と、恐怖と、哀愁を今のうちに分かち合いたい。
どうか、『ブルーバレンタイン』と『レボリューショナリー・ロード 燃え尽きるまで』の後に、『ぐるりのこと。』をご覧頂きたいです。
結婚生活の希望はいつだって身近なところにあるっていうオチで、なんとかハッピーエンドで締めてもらいたいのです。
Text/たけうちんぐ
初出:2013.06.11