自意識過剰な男は、本当に愛すべき人を捨ててしまう
『ギター弾きの恋』

 次に紹介するのは、一人の才能溢れるミュージシャンの恋の物語。1930年代を舞台にこれまた面倒くさい男が登場し、なぜか女性たちを虜にします。

ギター弾きの恋 1999 Sweetland Films B.V. and Magnolia Productions, Inc. All Rights Reserved.

ストーリー

 ジプシージャズの天才ギタリスト・エメット(ショーン・ペン)はいつも女遊びが盛ん。自堕落的な生活を送っていた彼はある日、口のきけない小柄な女性ハッティ(サマンサ・モートン)と出会う。横暴な態度をとりながらも次第に彼女を愛するようになるが、上流階級のブランチ(ユマ・サーマン)と恋に落ち、彼女との結婚を決意する――。

汚れた男が奏でる、ギターの美しい音色

 エメットは心優しいハッティに辛く当たるひどい性格だけど、奏でるギターは一級品。ダメな人間性を弁護するかのごとく美しいギターの音色は、思わずその足でサントラを買いに行きたくなるほどです。
ウディ・アレン監督をはじめとする識者がエメットについて語るカットが随所に挿入され、ドキュメンタリータッチで綴られています。でもこれ、実は完全なるフィクション。エメットをあたかも実在する人物として描き、リアリティを持たせる演出がとにかくニクい。こんな人ほんとにいるの? ってなると、物語に一気に引き込まれてしまうから。

エメットの場合:失って初めて気づく愛に大号泣

 派手好きで自意識過剰。ミュージシャンとして活動する傍ら娼婦の元締めをし、隙あれば物を盗み、変な趣味に女性を付き合わせる。そんな目立ちたがりの性格から、地味なハッティを捨てて美女のブランチに乗り換える。とにかく最低なエメットだけど、映画の終盤で柄にもなく泣き崩れるのです。
自分を愛してくれる女を愛せない。これは『アニー・ホール』のアルビーにも共通します。
その涙に、どうしようもない男の哀愁を感じずにはいられないのは、愛すべき人を愛せないというバカな男の性でしょうか。それがギターの優しい音色で包まれたとき、エメットに同情に近い愛情を感じてしまうのです。ほんと悔しいくらいにエメットが好きになる。だけど、こうして女たちも彼に騙されてしまったんですよね……。

ギター弾きの恋

『ギター弾きの恋』DVD ―デジタル・レストア・バージョン―
価格:1,890円(税込)
発売元:角川書店
販売元:角川書店

前後の連載記事