欲を満たすことで心の闇に迫る
寝取られ、羞恥プレイ、行為なしで絶頂。領が相手をする女性たちの多種多様の性癖が描かれる。それは単なる変態図鑑みたいないやらしいものではなく、領が彼女たちの欲望を満たすことはその人の心の闇に迫ることに似ている。
過去のトラウマを性的興奮に変換したり、美しい思い出を再生させたり。出産後、夫から求められなくなったセックスレスの主婦など、言葉を吐くだけでは決して解消できない、深い欲望が次々と汗と体液として放たれていく。
そして領もまた、幼い頃に家に戻って来なかった母親の面影を何度も追いかけ、満たされない感情を埋めるように「もっと女性を知りたい」と身体をうずめていく。しかし彼は最も身近な女性のことをよく知らず、最も求めている女性にも想いが届かない。知り尽くすことなんてできないのだ。領は女性たちの深い欲望を知ることで、自らの欲望に気付く。
身体とアソコが立派になっても、そこにいるのは娼夫と少年の狭間、まさに“娼年”。母親は少年にとって最初のオンナだ。そのオンナの正体すら領は知らず、母親を見失った赤ん坊のように別のオンナの乳房に吸い付く。これは大人になり切れない一人の少年が自分自身を知り、成長する物語でもある。
過去は変えられない。今を変えるしかない。かつて領が娼夫になるのを決意したのは、彼自身の中でまだ生きている“少年”と決別するためだろう。
セックスは欲を満たすためだけのものでなく、相手を、自分を知るためのもの。領がそこで見つけたものは、多くの人がいくらセックスをしても見つけられていないものかも知れない。
ストーリー
大学生の領(松坂桃李)は日々の生活や女性との関係にも充実感を得られず、大学にも行かずバーのバイトに明け暮れて、同じ夢をずっと見ていた。それは、幼い頃に「戻ってくる」と告げたまま去っていった母の面影。
ある日、領は美しい女性・静香(真飛聖)とバーで知り合い、「女なんてつまらない」とつぶやく領に興味を持った彼女は、自分の部屋に招き入れる。そこで始まったのは、“情熱の試練”という名のセックス。耳の聴こえない謎の少女・咲良(冨手麻妙)と行為に及ぶよう促された領だが、そこで不合格を言い渡される。
だが、咲良の後押しで領はかろうじて合格。静香が代表を務める女性専用コールクラブ「Le Club Passion」に娼夫として入店することになる。
そこで領は様々な女性の欲望に応え、人気の娼夫に成り上がっていく。やがてVIPクラスに昇格した彼が、静香にご褒美として何が欲しいかと尋ねられる。そこで領が求めるものとは――。
4月6日(金)、TOHOシネマズほか全国ロードショー
監督・脚本:三浦大輔
キャスト: 松坂桃李、真飛聖、冨手麻妙、猪塚健太、桜井ユキ
原作:石田衣良『娼年』(集英社文庫刊)
配給:ファントム・フィルム
2018年/日本映画/119分/R18+
URL:『娼年』公式サイト
次回は <“禁断の恋”と描かない。17歳と24歳の青年の恋の痛みと喜び『君の名前で僕を呼んで』>です。
北イタリアの避暑地で暮らす17歳のエリオは、大学教授の父が招待した24歳の大学院生オリヴァーと出会い、抑えきれない感情に駆られていく——。本年度アカデミー賞多数ノミネートの青春ドラマ
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