どんなに口が悪くてもチャーミングなヒロイン
ヨシカを苦しめるのは自意識であり、経験がないのに恋愛弱者に見られないように振る舞い、その嘘が曝け出されると感情が爆発してしまう。
ひたすら純粋に愛してくれるニの気持ちを素直に受け止めず、他人の悪い部分しか見えない。
それは臆病だから、10年間も片思いしているから、それを諦めないから。
どれも切実な理由だからこそ、初恋を諦めきれなかった彼女のハートブレイクに涙してしまう。
大きな音が鳴るように心が折れ、今まで偽ってきた世界が孤独で埋め尽くされる時、ヨシカの幸せを心から願ってしまう。
こんなに口が悪くて無駄に尖っていても、彼女の最高の笑顔を見てしまったからにはチャーミングに思えてくる。
まるでニにとってのヨシカのように、誰も彼女を放っておけない。ニが激情を持って彼女に投げかける言葉は、観る者の気持ちを代弁してくれるかのようだ。
金髪店員、最寄駅の駅員、釣りおじさん、毎日オカリナを吹いてる隣人など、脇を固めるキャラクターがどれも印象に残る。
どこか幻想的に美化された記憶の中の初恋相手・イチと、あまりに現実的で人間味溢れる同僚・ニの違いも魅力的だ。
小刻みにテンポ良くセリフが繰り出され、まさかの歌唱シーンなど数々の演出の巧妙さに唸る。ヨシカは絶望の淵に立たされるが、救いようのない物語として着地せず、ちゃんと希望が描かれることでその先の先まで想像を楽しめる。
本作がクリスマスシーズンに公開されることが痛快に思う。
ヨシカをカップルで笑っても、独り身で泣いても、どちら側で見ても彼女が愛されることに変わりはないだろう。それが現実には成せない、映画が成せる技でもある。誰にも知られず、恋の痛手に苦しみ続ける女の子が、こんなにも最高の形でチャーミングに描かれるのだから。
ストーリー
24歳のOL・ヨシカ(松岡茉優)は絶滅した動物を夜な夜なネットで調べるのが趣味で、中学時代から10年間、ずっと片思いをしてきた同級生・イチ(北村匠海)が今も忘れられない。
これまで恋愛経験のなかった彼女、ある日会社の同僚・ニ(渡辺大知)に告白される。初めての経験に舞い上がるも、ニとの関係にいまいち馴染めず、ある出来事をきっかけにイチに再び会おうと決意する。
SNSで同級生の名前を騙って同窓会を計画し、憧れの彼との再会を果たすが……。
12月23日(土・祝)、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー
監督・脚本:大九明子
原作:綿矢りさ著『勝手にふるえてろ』文春文庫刊
キャスト: 松岡茉優、渡辺大知(黒猫チェルシー)、石橋杏奈、北村匠海(DISH//)、 古舘寛治、片桐はいり
配給:ファントム・フィルム
2017年/日本映画/117分
Text/たけうちんぐ
次回は <素敵なおじさまとイケメンが共闘する天国『キングスマン:ゴールデン・サークル』>です。
スパイ機関「キングスマン」が麻薬組織「ゴールデン・サークル」のミサイル攻撃によって壊滅される。エージェント・エグジーは仲間の仇を取りに、そして世界から平和を取り戻すためにアメリカへと向かう——。世界中で大ヒットした『キングスマン』の続編。
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