結成して僅かで成功を収める芸人もいれば、何年挑んでも風呂なしアパートから出られずに夜勤のバイトを続けている芸人もいる。
新人の芸人・にゃんこスターが決勝に進出した『キングオブコント2017』が記憶に新しい。誰かが笑えば誰かが泣くのは、何も芸人だけの話ではない。
人を相手にする仕事や生活の中で、互いに無いものを補完し合うように過ごす徳永と神谷の姿に胸を打つ。それは漫才に限らず、人と人とが支え合う上で生まれる“ボケとツッコミ”の関係が描かれているからだろう。
お笑いコンビ・ピースの又吉直樹の芥川賞受賞作『火花』を、菅田将暉・桐谷健太主演で映画化した青春ドラマ。
監督はお笑い界で又吉の先輩芸人である一方で、『板尾創路の脱獄王』『月光ノ仮面』など映画作品を手がける板尾創路。又吉と同じく独特な言語感覚の持ち主であり、コンビでは同じくボケ担当の原作/監督の関係性で描かれるからこそ、ボケ担当の徳永の視点の説得力がより一層増している。
菅田将暉の真に迫る“常識を覆す”漫才
友人が仕事仲間に変わる時、諦めるか諦めないかの瀬戸際に立たされる時。
夢を抱いた時点で、誰もが茨の道に進み始めるのだろう。中学時代の友人・山下をツッコミに、自らをボケに選んだ徳永(菅田将暉)もまた、打ち上がる花火のような煌めきを求めてその一瞬に命を注ぎ続ける。
先輩芸人・神谷(桐谷健太)との衝撃的な出会いから、相変わらず売れなくても徳永の生活が少しずつ輝き出す。“常識を覆す”ものに憧れる徳永は、神谷の奇抜な言動によって、普段はボケ担当なのにツッコミの立場になる。
お笑いの才能はあるけど生活の才能がまるで無い神谷に対し、時折先輩と後輩の壁を越えてツッコむ。希望も絶望も共にする関係性が、観客不在の場面でもスクリーンの前の観客を笑わせ、心を打たせてくれる。
終盤の“常識を覆す”漫才のシーンは涙も汗も唾も飛び散り、すべてを放出するように叫び続ける菅田将暉の演技は真に迫っている。
幼少時代からお笑いに憧れていた彼だからこそ、リスペクトを込めて一人の売れなかった芸人の魂を宿らせる姿に涙で応えてしまう。
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