体感時間は93分でも、情報量は180分くらい
ビールが喉元から体内に入り込んだり、辺り一面が静寂に包まれるように水に浸かったり。湯浅政明監督の得意技というべきか、実写では決して表現できない文学的表現がアニメーションで表される。
乙女と李白との飲み比べ、先輩の辛い物を食べる戦い、性欲との葛藤などファンタジー色満載のビジュアルにより、恋愛する人間の頭の中の視覚化に成功している。
好奇心旺盛で、衝動的で、純粋。“黒髪の乙女”のキャラクター造形の説得力に圧倒される。
恋に理由なんて要らないけど、この場合は特に要らない。髪型、服装、仕草からして冴えない男子の理想像がすべて詰め込まれている。
インテリで理屈っぽい先輩が太刀打ちできない、理屈を超えた感情が先輩のみならず、多くの男子の心まで蝕むに違いない。
恋愛とはかくも人を狂わし、雲を掴むような希望と絶望を行き来するものなのか。それに身に覚えがある人なら、このファンタジーにすぐに溶け込むだろう。体感時間は93分でも、情報量は180分くらい。
乙女の“おともだちパンチ”の可愛さ、二人を繋げる絵本『ラ・タ・タ・タム』を巡る悲喜交々、ゲリラ演劇『偏屈王』による『アナ雪』顔負けのミュージカル。
腹を抱えて笑わせるエピソードが満載でも、先輩の純情で繊細な恋心が貫き通されている。
大学生が多い京都が舞台であるのも魅力の一つだ。
学園祭の無軌道な連帯感や、時代不明の学生寮の侘しい生活など、よく考えてみると“不思議”でいっぱいの学生生活にはファンタジックに変換できる要素が盛り沢山。
頭の中ではいつだって自由だ。何を思っても考えても、誰にも咎められない。ただ、行動に行き着くまでの距離が虚しい。
だから、そんな先輩の恋愛を誰もが応援したくなるのだろう。
ストーリー
大学生の“先輩”(声:星野源)は、クラブの後輩の“黒髪の乙女”(声:花澤香菜)に思いを寄せる。
“先輩”は「なるべく彼女の目にとまる=ナカメ作戦」を実行し、外堀を埋めていこうとする。が、“黒髪の乙女”はかなりの酒豪で、“オモチロイ”ことが大好き。好奇心旺盛の彼女は様々なことに巻き込まれていき、それを追う“先輩”も不思議な出来事に遭遇していく。
個性豊かな仲間たちが次々と起こす珍事件に出くわしながら、二人の不思議な夜がどんどん更けていく。
“先輩”の無様で不器用な恋愛は、果たしてどこに向かうのか――。
4月7日(金)全国公開
監督:湯浅政明
原作:森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』(角川文庫)
脚本:上田誠
キャスト(声の出演): 星野源、花澤香菜、神谷浩史、秋山竜次(ロバート)、中井和哉 他
配給:東宝映画事業部
2017年/日本映画/93分
URL:『夜は短し歩けよ乙女』公式サイト 前売券 Text/たけうちんぐ
次回は<夢の街“ハリウッド”でさえも結構ダサい恋愛をしている『カフェ・ソサエティ』>です。
1930年代、ハリウッドを夢見てニューヨークからやって来た青年・ボビーは秘書の美女・ヴォニーに心を奪われる。しかし、彼女には思いがけない恋人の存在があった——。ジェシー・アイゼンバーグ主演で贈るウディ・アレン最新作。
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