ある人にとっては狂人でも、ある人にとってはナイスガイ
デイヴィスの破壊は人間関係にすら及び、義父母とも距離を生んでしまう。でも、その喪失感は思いがけない人と関係を築くことになる。
妻が亡くなった夜、病院の自動販売機が故障したことから、苦情係のシングルマザー・カレンと、その息子・クリスに出会う。二人に刺激され、デイヴィスは人生の再出発をするために生きている実感を得ていく。
クリスと一緒に音楽を聴きながら、ノリノリで物を破壊していく様が微笑ましい。クリスもまた嫌われ者で居場所がなく、デイヴィスと同じ“ゼロ”のスタートなのだ。二人の友情はそれぞれが何かを失ったからこそ結ばれた。
この物語をデイヴィスだけのものにしないために、クリスは物を破壊するように趣味のドラムを叩き、デイヴィスもまたイタズラ好きな少年のように窓を割っていく。その大きな音にどこか爽快感すら覚えてしまう。デイヴィスとクリスの笑顔から、破壊の後には再生が待っている気がしてならない。
他人の印象のほとんどが、その人の行動一つで決められる。
デイヴィスはある人からすれば狂っていて、クリスからしてみるとクールなナイスガイ。そして、観客からしてみるとこの物語の誰よりも人間臭くて、身近な存在に感じるはず。
一面だけでは分からない。多面的に切り取られることで、デイヴィスの葛藤がより深く感じられる。
死を美化せず、心の喪失を真正面から捉える誠実な描写が胸を打つ。涙がすべて悲しみを表すなんて大間違いだ。
デイヴィスがただ一つどうしても壊せない物にたどり着いた時、人生にとって本当に大切なものを浮き彫りになる。それは決して涙などでは表せないだろう。
ストーリー
デイヴィス(ジェイク・ギレンホール)は富も地位も手に入れたウォールストリートのエリート銀行員。何一つ不自由ない暮らしの中、いつもの仕事へ向かう朝に交通事故で突然妻を失う。
ところがデイヴィスはなぜか一滴も涙が流せない。無感覚である自分に気づき、本当に妻を愛していたのか葛藤する。そんな中、義父・フィル(クリス・クーパー)の助言がきっかけになり、身の回りのあらゆる物を破壊していく。会社のトイレ、冷蔵庫、妻のドレッサー、そしてついには家さえも。
そんな日々の中、ひょんなことで知り合った自動販売機の顧客担当責任者でシングルマザーのカレン(ナオミ・ワッツ)と、その息子・クリス(ジューダ・ルイス)と知り合い、互いに癒し合うことで生きている実感を得ていく――。
2月18日(土)より、新宿シネマカリテほか全国ロードショー
監督:ジャン=マルク・ヴァレ
キャスト:ジェイク・ギレンホール、ナオミ・ワッツ、クリス・クーパー
配給:ファントム・フィルム
原題:DEMOLITION/2015年/アメリカ映画/101分
URL:公式サイト『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』
Text/たけうちんぐ
次回は <ああ、この世に映画があってよかった『ラ・ラ・ランド』夢追い人達のミュージカル>です。
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