すぐそばにいる他者が、天国にも地獄にも変えてくれる
グザヴィエ・ドランはこれまでの作品で常に自意識を描いていた。それらの物語には必ず自己投影する対象がいたが、本作はついに自分だけでなく他者を含めた“世界”にまで及んでいる。また、家族という小さなコミュニティと“世界”を比較することで、その終わりを同価値かそれ以上に捉えている。
人にとって最大の不幸せは“世界の終わり”なのだろうか。そもそも“世界”はどこからどこまでを指すのか。それがこの目で見た景色に限るのであれば、ルイにとってそれは家族の愛だろう。それが終わることと比べたら、たかが世界の終わりなんて。
すぐそばにいる他者が、そこを天国にも地獄にも変えてくれる。となると人類皆、自意識の中で暮らしているのも知れない。
「自分が死ぬ」という大どんでん返しを胸に抱えながらも、それ以上の喪失を肌で感じ、そんなルイを見ながら渦巻く感情によって愛の偉大さを改めて知ることができる。
多彩なサウンドトラックに乗せて、先鋭的な映像表現が目立つ。だが、その中で“家族”という普遍的で古典的なテーマを打ち立てる。 まるで世界の終わりのような感情を覚える時は、誰にだってある。ルイがそうであるように、そこには必ず愛が絡んでいるだろう。
ストーリー
人気作家・ルイ(ギャスパー・ウリエル)は、家族にもうすぐ自分が死ぬことを打ち明けるために12年ぶりに実家に帰ってくる。 妹・シュザンヌ(レア・セドゥ)はオシャレをして待っていて、母・マルティーヌ(ナタリー・バイ)は息子の好物をテーブルに並べ、無愛想な兄・アントワーヌ(ヴァンサン・カッセル)は相変わらず高圧的で、その嫁・カトリーヌ(マリオン・コティヤール)は「初めまして」とルイに声をかける。
激しい口喧嘩や、単なる小競り合い。他愛のない話が続くことで、ルイは死を告げるタイミングを逃していく。そして、母の自慢のデザートを家族で囲んだ時、ついに「実は、みんなに話がある」と切り出す――。
2月11日(土)、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
監督・脚本・編集:グザヴィエ・ドラン
キャスト:ギャスパー・ウリエル、ヴァンサン・カッセル、レア・セドゥ、マリオン・コティヤール
配給:GAGA
原題:Juste la fin du monde/2016年/カナダ・フランス合作映画/99分
URL:『たかが世界の終わり』公式サイト
Text/たけうちんぐ
次回は<妻の死後、泣けない夫は物を壊し続けた『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』>です。
妻が突然亡くなった。だが、夫・デイヴィスは少しも悲しくなかった。心の居場所を探すべく、トイレ、パソコン、家具など身の回りの物を壊し始める——『ダラス・バイヤーズクラブ』のジャン=マルク・ヴァレ監督最新作。
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