上映後、あまりの重厚感にまさに“沈黙”する。
強い信仰心が人を殺め、宗教そのものが疑われるこの時代に、信じることとは一体何かを突き詰める。
今、この作品が世に放たれることに意味を感じざるをえない。神の名の下にライフルを撃ち放つ。身体に爆弾を巻いてスイッチを押す。そんなニュースが溢れ人々が命を落としていく中、それを眺める我々が“沈黙”する代わりに、『沈黙ーサイレンスー』は大きな叫び声を上げる。そして胸ぐらを掴んで訴えかけてくるのだ。
『タクシードライバー』、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』など数多くの作品で世界中の映画人に尊敬される巨匠マーティン・スコセッシの新作は、日本人作家・遠藤周作の名作小説『沈黙』の映画化。
実現まで28年間もの歳月を費やした本作には、『アメイジング・スパイダーマン』のアンドリュー・ガーフィールド、『シンドラーのリスト』のリーアム・ニーソンに加え、日本から窪塚洋介、浅野忠信、イッセー尾形、塚本晋也、小松菜奈、加瀬亮ら実力派が参加している。
キチジローの親しみやすい“人間臭さ”
信仰を貫くと殺される。棄教すると神に背くことになる。踏み絵の上、震える足が究極の選択を強いられる。命以上に大切なものが、人間以上に信じるものがある。その信念の数々が、今の時代を生きる我々に強く訴えかけてくる。
日本人キャストが名を連ねるのも見所の一つだ。それはハリウッド作品でよく見る異質感を覚える日本人像とはワケが違う。日本映画界を代表する俳優たちの演技合戦が楽しめる。生み出す作品を数々のオスカーに導いてきたマーティン・スコセッシが信頼を寄せるのもよく分かる、日本だけに留まらない才能がここに集結している。
中でもキチジロー演じる窪塚洋介の演技が光る。キチジローは神を信じ、人を裏切り、それでも人を愛し、運命を憎む。死を免れることの罪悪感を背負いながら、信念よりも生に執着する人間臭さを身に纏う。時代を飛び越えて最も感情移入しやすい人物として、信仰心故に命を捧ぐ者たちの苦悩を見つめていく。 作品を取り巻く重苦しいムードの中で唯一、人間の奥深さと軽さを併せ持つキャラクターを体現する窪塚洋介の振り幅に圧倒されてしまう。
- 1
- 2