ここから抜け出したい。そう思いながら、田舎町で暮らす少年少女は孤立する。身体はここにあるのに、心はどこか遠くに行ってしまいそう。その乖離は友人同士では補うことができず、海でも山でも空でも全然物足りない。
そんな夏芽を唯一救ってくれるのは、大自然も及ばない煌めきを放つ一人の少年・航一郎だった――。
ジョージ朝倉の人気コミックを、『おとぎ話みたい』『5つ数えれば君の夢』など多くのシネフィルと少女たちのカリスマ的作品を生み続ける女性監督・山戸結希監督が映画化。
思春期特有の“傷”を、小松菜奈、菅田将暉、重岡大毅(ジャニーズWEST)、上白石萌音といった話題のキャストたちとともに刺し入れる。それはとても痛く、ズブズブと少女の内部に入り込んでくる。
少女が求める「何か」を持つ航一朗の存在感
この“ナイフ”で沸き出るのは、みずみずしい汗か。はたまた、痛々しい血か。本作は後者を選ぶ。青春映画の枠に決して囚われず、その規格外を魅せてくれる。
ただでさえ東京出身なのに、さらにモデルというプライドで塗り固められた夏芽。そのキャラクターは10代特有の自意識を象徴するかのようで、いくら小松菜奈が持つ天性の美体がそこにあっても、自己投影の器になる。また一方で、上白石萌音演じるカナが羨望の眼差しを向けるように、少女の足りないものを補う存在でもある。
でも、その少女だって常に欲望している。田舎町では満たされない。そこで彼女を救い出すのは、金粉を撒き散らすように現れる航一朗。すべての少女が求める「何か」を持つなんてハードルが高すぎるが、演じる菅田将暉はそれをやってのける。
人間臭いのに人間離れし、生々しさと幻想のバランス感覚が長けたその存在感に、夏芽に限らず誰もが心を奪われるだろう。
それは従来の思春期恋愛映画のクールキャラとは全く違う、得体のしれない危うさを醸し出す魅力なのだ。その“ナイフ”の切れ味は、物語後半の怒涛の展開で試されることになる。
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