「ロックをやるなら笑われる覚悟をしろ!」
周囲から笑われたり、校長から怒られながら、デビッド・ボウイやザ・キュアーのロバート・スミスの髪型を真似る。
監督自身の実体験に基づいた1980年代のブリティッシュ・ロックの固有名詞を多用することで当時の臨場感が備わる。
それはフィクションとは思えない説得力があり、コナーを実在する身近な少年のように愛してしまう。
コナーの唯一の理解者である兄は、ロックの先生のような役割を担う。そのセリフが心に残るはずだ。
「ロックをやるなら笑われる覚悟をしろ!」
青春時代に一つや二つ、他人から理解されない情熱を周囲の目を気にして進めなかったり、あきらめたりした経験があるだろう。
が、コナーは一途に貫き通す。他人からバカにされても夢中で何かを追いかけ、強く愛したものだけが辿り着ける境地を描いている。
アメリカのプロムを模したパーティーのギグが素晴らしい。
劇中バンドが登場する音楽映画は、決まって既存の有名アーティストの楽曲のほうが勝る。が、『シング・ストリート』の音楽はデュラン・デュランやザ・ジャム、ザ・キュアーらを掻き消すくらいに名曲揃い。
マルーン5のアダム・レヴィーンによるもので、中高生くらいの男の子たちにこんな音楽が作られるか? と、正直リアリティに欠けてしまう。
が、そこを多少犠牲にしても、青臭くてイタいコナーたちがまるで魔法をかけられたようにかっこよく見えてしまう瞬間がたまらないのです。
何でも一途に突っ走るコナーを見て笑ってしまったら、もうすっかり大人になってしまった証なのでしょう。
コナーは憧れのロンドンと、ラフィーナの心に辿り着けるのか?
音楽に限らず、すべての青春の初期衝動を思い出させてくれる。
たとえイタくてもダサくても、何かに夢中になることの素晴らしさをこの映画は教えてくれるはずです。
ストーリー
1985年のアイルランド・ダブリン。大不況により父親が失業し、14歳の少年・コナー(フェルディア・ウォルシュ=ピーロ)は学費の節約のために転校を余儀なくされる。そこは、不良ばかりが集う荒れ果てた学校だった。
家では両親のケンカが絶えず、学校では不良に目を付けられていじめられる日々。唯一の心の拠り所は、テレビから流れてくる隣国ロンドンの音楽とそのミュージックビデオだった。
コナーはある日、街でモデル志望の女の子・ラフィーナ(ルーシー・ボーイントン)に出会う。大人びた美しさに一目惚れをしたコナーは、「僕のバンドのミュージックビデオに出ない?」と誘う。慌ててメンバーを集めてロックバンド『シング・ストリート』を結成した彼は、ラフィーナとともにロンドンの音楽シーンを驚かせるPV制作に励む――。
7月9日(土) ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイント 他全国順次公開
監督:ジョン・カーニー
キャスト:フェルディア・ウォルシュ=ピーロ、エイデン・ギレン、マリア・ドイル・ケネディ、ジャック・レイナー、ルーシー・ボーイントン
配給:ギャガ
原題:Sing Street/2015年/アイルランド・イギリス・アメリカ合作映画/106分
URL: 『シング・ストリート 未来へのうた』公式サイト
Text/たけうちんぐ
- 1
- 2