ワニ、人さらい、爆弾…物騒な非日常が溶け込む

たけうちんぐ 映画 ふきげんな過去 前田司郎 小泉今日子 二階堂ふみ 高良健吾 山田望叶 兵藤公美 山田裕貴 2016「ふきげんな過去」製作委員会

 突如として日常が壊れていく危うさはどこかファンタジックな匂いを漂わすが、魔法使いや奇想天外な生き物が出てくるわけではない。ワニ、人さらい、爆弾。出てくるものがすべて物騒だ。
サスペンス要素たっぷりなファンタジーでも、それがつまらない日常に刺激的な非日常として溶け込む。
現実から逃げ出したい果子は、そこに希望を見出す。

 本編中、果子は二回しか笑わない。
そのタイミングとなる笑いの沸点が一体どこなのか…母親との再会にも揺らがない果子のテンションが動く瞬間は見逃せない。
それは一言で言うと“毒”だ。他の作品が当たり前のように描く青春は、本当はもっと冷めているものかもしれない、と。

 これは絆を描いた作品ではない。
甘酸っぱい恋愛や固く結ばれた家族なんて、どこにでもあるわけではない。
そこに馴染めない人なら「つまらない」が口癖の果子の気持ちに寄り添い、笑いも泣きも強要しない毒味たっぷりな本作に心を通わせるはずです。

 果子(過去)と未来子(未来)がほんの少しでも気持ちを共有した瞬間、夏の景色ががらりと変わる。
終始冷めたムードでも、登場人物一人一人に人間味が溢れているのが本作の最大の魅力。
日常はそんなに熱くない。でも、温もりはどこかにある。
そこから果子の本当の意味での夏の冒険が始まるのかもしれない。

ストーリー

 北品川の運河をつまらなさそうに睨んでいる女子高生の果子(二階堂ふみ)は、毎日を死ぬほど退屈に思っている。そんなある日、果子たち家族の前に18年前に死んだはずの叔母・未来子(小泉今日子)が姿を現わす。
古びれた食堂を営む家族は未来子との再会に慌てふためくが、果子と小学生のいとこ・カナ(山田望叶)はともに冷めた目で見つめる。
過去に爆弾事件を起こしたことで前科となり、死んだはずだった未来子は果子の実の母であることを打ち明ける。
図々しく居候する未来子に苛立っていた果子だが、未来子との出会いがつまらない夏を少しずつ変えていくことになる――。

6月25日(土)テアトル新宿他全国ロードショー

監督・脚本:前田司郎
キャスト:小泉今日子、二階堂ふみ、高良健吾、山田望叶、兵藤公美 山田裕貴
配給:東京テアトル(創立70周年記念作品)
2016年/日本映画/120分

Text/たけうちんぐ