子どもの感性が詰め込まれたジャックの視点

たけうちんぐ 映画 レニー・アブラハムソ ブリー・ラーソン、ジェイコブ・トレンブレイ、ジョアン・アレン、ショーン・ブリジャース、ウィリアム・H・メイシー 『ルーム』 ElementPictures/RoomProductionsInc /ChannelFourTelevisionCorporation2015

赤ん坊の頃、この世界に顔を出した時のことを覚えている人なんて誰一人いない。だが、ジャックがその世界に触れたのは5歳だった。小さな部屋が世界のすべてだと思っていた少年に、この世界はどう映ったのか。

ジャックの視点がたくさん映し出される。どれもクローズアップが多く、大人たちの細かな仕草、表情、身体の一部一部が大きく映され、それに圧迫感すら覚える。観る人の子どもの頃の記憶の糸をたぐり寄せ、誰もが幼い頃の視点の狭さを思い出せる。

確かに、“世界”なんて自分のいる景色から見えるものでしかなかった。ジャックの出で立ちは特異だが、その視線は子ども特有の普遍的な感性で描かれている。その視点に寄り添うことで、脱出する時もその後もよりドラマチックに感じられるのだ。

過酷な世界へ飛び込んだ2人の未来に、一体何が待ち構えているのか。そのラストシーンには母子の成長が詰め込まれて、涙なしでは見られない。

「死んだジャックを木の下に埋めてほしい」

息子を脱出させようとしたこの口実は、ラストシーンへの伏線だった。部屋から逃れるために死んだフリをするジャックと、辿り着いた世界で生きたフリをしているかのようなジョイ。ラストカットはこの2人を見守るように“あるモノ”が大きく映し出され、この広い世界で生きていく覚悟が心に突き刺さる。

“世界”というものは、たくさんの“部屋”が折り重なって出来たもの。その事実を母子の目を通して目の当たりにした時、ラストシーンで大粒の涙がこぼれてしまう。

誰もが“部屋”の中で暮らしている。そこに窓はあるのか。扉はあるのか。ジョイとジャックの姿から、それを確認できるかも知れません。

ストーリー

7年間に渡って監禁されている母親・ジョイ(ブリー・ラーソン)は、5歳になる息子・ジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)と施錠された部屋で暮らしている。
ジャックにとって、この小さな部屋が世界のすべてだった。

ある日、ジョイは自分たちを監禁しているオールド・ニック(ショーン・ブリジャース)との言い争いをきっかけに、外の世界へ脱出を試みる。
ジャックは死んだフリをし、オールド・ニックに車で運ばれる。車の上で目を開き、空を見上げ、ジャックは初めて本当の“世界”に触れる――。

全国公開中!

監督:レニー・アブラハムソン
キャスト:ブリー・ラーソン、ジェイコブ・トレンブレイ、ジョアン・アレン、ショーン・ブリジャース、ウィリアム・H・メイシー
配給:ギャガ
原題:Room/2015年/アイルランド・カナダ合作映画/118分
公式サイト:https://gaga.ne.jp/room/

Text/たけうちんぐ