死ぬまでには観ておきたい映画のこと

ハンガリー×昭和歌謡!?日本人歌手のユーレイが誘う奇想天外なおとぎ話『リザとキツネと恋する死者たち』

元日本大使未亡人の看護師として働くリザの唯一の心の拠り所は、日本の恋愛小説と彼女にしか見えないユーレイの日本人歌手・トミー谷。やがて恋をしようと外の世界に飛び出すと、なぜか彼女が恋した男が次々と殺される——?日本のヘンテコ昭和歌謡が鳴り続けるハンガリー発のブラック・ファンタジー。

たけうちんぐ 映画 リザとキツネと恋する死者たち
©Péter Szatmári

 毎日労働に暮れ、景色に飽き、疲労に倒れる。こんな日々の憂鬱を凌ぐために、誰もが心の拠り所を探している。映画も音楽も、スポーツもアイドルも、ストレス社会に生きる現代人にとって必要不可欠だ。

 ハンガリーに住む30歳独身リザの場合、これが他の人とはちょっと違っている。日本人歌手が心の拠り所。しかもユーレイ。やたらと歌って踊る。胡散臭いメガネをかけてる。そして怪しい。その名はトミー谷。とにかく胡散臭い。色々とおかしな話だけど、リザにとって彼が欠かせない存在であることは間違いない。

 この時点でもうヤバいでしょ。油断していると置いてけぼりになる。ハンガリー独身女と日本人歌手が織りなす、ヘンテコな昭和歌謡溢れるブラック・ファンタジーに。


ハンガリーでハリウッド映画を凌ぐ異例の大ヒット!


 ハンガリーで超売れっ子のCMディレクター、ウッイ・メーサーロシュ・カーロイ監督の長編デビュー作品。栃木県・那須に伝わる『九尾の狐伝説』をモチーフに、今までに観たことのないタイプのファンタジーを生み出す。
第35回ポルト国際映画祭でグランプリに輝き、観る者を面食らわす異質な作品ながら(だから?)きちんと評価されている。

 ユーレイの日本人歌手・トミー谷を演じるのは日本人とデンマーク人のハーフであるアクション俳優、デビッド・サクライ。ハンガリー国内の作品に多数出演するリザ役のモーニカ・バルシャイとの国境と現実を超えたコラボレーションが奇妙すぎて、トミー谷の意外に流暢ではない日本語にもツボに入ります。


トミー谷って一体何者?


たけうちんぐ 映画 リザとキツネと恋する死者たち
©Péter Szatmári

 日本人ならまず誰もが“トミー谷”に釘付けになる。エメラルド色のスーツに身を包み、インテリ風メガネをかけ、ユーレイなのにマイクを掴む。生きてる人間以上に生を感じるパワフルな歌とダンスで、リザにうざいくらい付きまとっている。

 これがリザの理想の男性像なのか知らないが、常に彼女にとって都合のいい笑顔を振りまくのが鬱陶しくてたまらない。優男かと思いきや、突然悪魔のような目でリザに近寄る男の邪魔をする。不気味な一面を匂わすところも魅力的。観終わってもしばらくトミー谷の残像が目に焼き付いて離れない、トラウマレベルの存在感です。
1970年代のブダペストの風景に日本の昭和歌謡が鳴り続ける異質感と、蛍光色を振り撒きハイテンションで歌い続ける日本人。食あたりを起こしそうなこの組み合わせがシュール。

 リザが恋する男が登場するといきなり“死者”の大きなテロップが出て、死ぬとそのシルエットがずっとマーキングしてくる。物語に入り込む前から気になる部分が多々ある。ここはウッイ・メーサーロシュ・カーロイ監督がCM界のカリスマだけあってか、各シチュエーションの短い時間の中で心に引っかかる要素を詰め込むのが上手い。名前は長いのに。