鏡を見ると「この顔と一生付き合っていくのか」と物憂げになることがある。
一生付き合いたい顔なら全然いい。一刻も早く別れたい顔だと、この映画の“魔法”に想いを馳せる。一度でもいいからイケメンに変身して、美女になりすまして、意中のあの人を振り向かせてみたい。他人になりきることで、一回限りの人生を何回でも味わってみたい。
独身男のマックスはその権利を手に入れた。それもなんと、他人の靴で。
人生を変えたい人の理想が詰まった物語は、最後に思いがけない展開が待ち構えているのです。
俳優としても活躍する『扉をたたく人』のトム・マッカーシー監督が、ニューヨークを舞台に孤独な中年男の人生をドラマチックに変える。
冴えない靴修理屋の独身男を演じるのは、泣かせるヒューマンドラマから下ネタ全開のコメディまで幅広く出演するアダム・サンドラー。一見、小規模な作品に思えるがダスティン・ホフマン、スティーブ・ブシェミと誰もが知っている名優たちが脇を固めている。
さすが『カールじいさんと空飛ぶ家』でアカデミー賞脚本賞にノミネートされただけあります。本作でも脚本を手がけ、誠実で、時折ファンタジーであることを忘れるくらい人間味溢れるドラマに仕上がっています。
靴の修理で見つけた思わぬ人生の楽しみ
【簡単なあらすじ】
マンハッタンの片隅で小さな靴修理屋を営むマックス(アダム・サンドラー)は彼女無し、貯金無し。父親のアブラハム(ダスティン・ホフマン)は遠い昔に失踪し、年老いた母親と二人で質素に暮らしている。贅沢な生活を夢見ても全く手に届かず、毎日靴をせっせと修理していた。
ところがある日、横暴な性格のギャングに靴修理を依頼されたのだが、いつも使っているミシンが壊れてしまい、物置に眠っている先祖旧式のミシンで修理することに。何とか修理したギャングの靴を試し履きし、鏡をふと見ると、なんとギャングの顔に大変身していたのだ。
マックスは人生の楽しみをようやく見つけた。靴修理するたびに靴を履き、他人になりすまし、未知なる世界を体験していく。
しかし、親孝行のために思い立った行動が、予期せぬ事態を引き起こしてしまう。やがて“魔法”の正体が暴かれ、マックスは衝撃の真実を目の当たりにするーー。