海江田、それはすべての女性の理想が詰まった男性像
緑の自然に囲まれた風景と、誰にも縛られることない穏やかな時間。都会にはないこの二つが自然治癒力を促し、つぐみの心は再生されていこうとする。
が、簡単にはいかない。何もない風景と自由な時間は、より一層彼女を孤独にする。過去の記憶が心を蝕む。一人でしくしくと泣くシーンは胸が痛い。
そんな彼女のもとに突如現れた海江田は救世主。胸元を開けた白シャツに、ロマンスグレーのサラサラヘアー。エレガントに登場するシーンは、誰かの妄想か?と言わんばかりのファンタジー感溢れる男性像。
ダンディーな色気でグイグイ攻める彼は、まるですべての女性の理想が詰まったかのようです。
何が起きても動じない。時には少年のように無邪気になり、父親のように守ってくれる。「男」を1から100まで網羅した男、こんなのトヨエツにしか演じられない。現実ではありえないキャラクターだが、関西弁の親しみやすさが妙な生々しさを与えてくる。
海江田は、自ら幸せから遠ざかろうとするつぐみに説教する。
「お前は自分を大切にしなさすぎる!」なんて最強の殺し文句じゃないですか!
少年を父へ、少女を女へ変えていく
物語が進むにつれて、なぜ海江田がつぐみの祖母の一軒家に住み始めたのか、つぐみに最初から好意を寄せていたのかが紐解かれていく。
父と娘くらいの歳の差の二人は、まるで父親を慕うように愛し、娘を育てるかのごとく接していく。
しかし、親戚の少年とのひょんな共同生活から、二人の表情に変化が訪れる。恋愛を拒んできた海江田と、恋愛から遠ざかろうとしていたつぐみには確かに父性と母性が宿り、二人の関係性も変わってくる。それはまるで、少女から女に変わるかのように劇的です。
決して二人だけで物語は進まない。
廣木隆一監督の演出は、周囲の人間模様が絡み始めることで、ようやく恋愛として発展していく。それは安藤サクラ演じるつぐみの友人、向井理演じるつぐみの元カレのエピソードもまた然り。二人を取り囲む登場人物たちが、二人の絆をより深めていく。
本作は海江田の少年から父に変わる成長の記録でもある。“娚の一生”というタイトルが沁みてくるのも頷ける。
つぐみの祖母との知られざる切ない関係も、今ここに在る恋に至るまでの経緯と思えばいい。そうすれば、つぐみが都会で味わった辛い恋愛の痛みも吹き飛ばしてくれる。