エステラがどんどん可愛く見えてくるのに、結果は実らない

 正直、エステラの第一印象は「なんだかゴツい」。
ファッションはワイルドで一匹狼風。男を寄せ付けないのは格好だけではなく、性格も少々荒っぽい。すぐに表情に出るし、タクシーの運転手に毒を吐くし。

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 男性経験が無いのも正直頷けるので、彼女とは真逆の性格のトレヴァーにはすぐに見破られてしまう。
男と付き合ったことがないエステラが初めて近づいた男は、正確にいうと“男”ではなかった。
一途に恋をするエステラと、彼女には恋をしないトレヴァー。もどかしさ満載の関係に、トレヴァーの新たな恋がさらに拍車をかけるのです。

 それでも、エステラの願望と反比例するように、彼女はどんどん可愛くなっていく。化粧をする。笑顔になる。会話が弾む。
恋をすることで以前とは別人のように華やかになっていく姿が愛くるしいが、その分切ない。その“女らしさ”は、トレヴァーにとってますます良い後輩の要素であり、友達になってしまっていく。それに気付きながらもデートを重ねていくエステラの心境は、見るに耐え難い地獄なのかもしれません。

色彩豊かな映像と、色とりどりの“性”の二人

 エステラの赤い髪、窓の外から溢れる黄色い光、全編を包み込む淡い青い色がカラフルに彩る。それはまるで劇中に描かれる“性”のよう。
色とりどりに光り、影を作り、エステラとトレヴァーの葛藤を描いている。詩的に思えるが、身近に感じられる物語。だって舞台がコールセンターなんだもの。
仕事で見えない相手と話すより、トレヴァーという見える存在と話すほうが距離を感じる。そんな皮肉が効いています。

 仕事は就任も、成績も、退職がある。恋はそれがはっきり分からない。二人の関係は変わるのか、はたまた…。

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 それでも、二人はもともとの場所に帰っていく。
エステラはシンガーソングライターの夢を持ち、小さなライブハウスで歌う。そのラブソングは吐き出せなかった感情そのもので、トレヴァーの横顔がふと思い浮かぶ。
夢は叶えられなくても、夢の中では叶えられるのでしょうか。
男らしさ、女らしさ、人間らしさの狭間で揺れる彼女の歌に、心を動かさずにはいられません。