不満を漏らしながら、どこかしら絆を感じる二人
口を開くと不満ばかり。言い返すとケンカ。我慢してもいつか爆発するから、もうどうしようもない。そんなニックとメグはどこにでもいる夫婦。
オープニング、週末の混み合った電車の中でゆっくりカメラが引いていき、ニックとメグをさりげなく映し出す。
イギリスに限らず、日本の電車内でもよく見かける幸せそうな熟年夫婦だが、その映し方は普遍的な夫婦の不満と、そこに隠された絆を描いているのです。
二人とも、とにかく口が悪い。10年以上セックスレスであることについて語れば、「フニャチン見るよりエッフェル塔を見たほうがマシ」だなんて奥さん言い過ぎですよ。
こんな様子で毒を吐きながら、美しいフランスの街並を眺めるギャップ。レストランを決めるのにも、「モダンすぎる」「客がいない」「観光客だらけ」「英語のメニュー」とダメ出し続きで、なかなか決められない。
互いに不満は積もりに積もる。とはいえ、ニックが道で転んでしまった時に見せるメグの優しさにドキッとする。
どこかで助け合い、絆を深め合う旅になっている。それを感じた時の安心感は計り知れないです。
30年の月日が経つ前に、映画で旅ができる
とにかく、パリを堪能できる映画です。
凱旋門を始めとした観光地が一気に楽しめる。オペラガルニエ、プラザアテネ、モンマルトルの丘、ロダン美術館、ポン・デ・ザール橋、エッフェル塔……まるでニックとメグとともに旅をしているような錯覚を覚えます。
特に、モーガンのパーティーを抜け出して二人が仲直りをするポン・デ・ザール橋のロケーションといったら…。
セーヌ川が流れて、その上でニックとメグは絆を深め合う。毒を吐き続ける二人だからこそ、時に甘い言葉を呟いてしまったら心が溶けてしまいそう。
熟年夫婦であることを忘れて、30年前の新婚旅行を匂わせる描写がところどころ散りばめられる。その度に、結婚っていいなって思えてしまう。
この歳になったら喘ぎ声なんて階段を昇る時にしか出さないけど、二人でパリ中を歩いて息を荒げることこそが“夫婦”そのものなのでしょう。