豊臣秀吉もあざとくない?

「どうせ私はあざといことなんてできませんよモテねーわけですよタンでも吐いてやろうか」と思っている私だけど、ここで一度冒頭の辞書の意味に戻りましょう。

「押しが強くて、やり方が露骨で抜け目がない」

…お? これは…この意味のことならできるのでは…? 
「あざとい」と聞くとどうしても、「ぶりっ子」が浮かんできて、「ぶりっ子」が浮かぶとそこからさらに「ピンク」とか「ふわふわ」とか「グロス」とかが浮かんでくる。でも、そもそもこの連想ゲームが間違っていたのかもしれない。あざといのはぶりっ子だけではないはずだ。「押しが強くて、やり方が露骨で抜け目がない」人物はたくさんいる。豊臣秀吉とか。あいつはヤバイよ。なんせ草鞋を懐で温めてんだから。いくら好かれたいにしてもやりすぎだろと思う。だけど、秀吉はその「押しが強くて、やり方が露骨で抜け目がない」行為、すなわち「あざとさ」で天下統一したわけだ。とんでもない奴だね。でも豊臣秀吉は全然ぶりっ子じゃないしグロスも塗ってなさそう。グロスとかあの時代ないしたぶん。

本来は、目的のために手段を選ばず、本気で獲物を狩りに行く振る舞いを「あざとい」と呼ぶ。その振る舞いの種類は何万通りもあるはずなのだ。そこ、忘れてない? どうして、あざとい=ぶりっ子みたいなことになってるんだろう。その先入観もったいないなと思って、捨ててみようと決めて、今一度、自分に「秀吉的あざとい瞬間」がなかったかを思い返してみる。…あるぞ……めちゃくちゃあるぞこれは…私はなんてあざとい女なんだ……。

気になる男の子の好きなミュージシャンや作家を調べて(SNSを舐めまわして)さりげなくその作品の話をしたことがあります! あざとい!
気の強い女の子がタイプだと聞いて、「男の子を泣かせたことがある」とアピールしたことがあります! あざとい!!
芸術家肌の女の子が好きそうな男の子だったので、言いたいことをうまく言葉にできないふりをしました! あざとい!!

もう限界!!!!! これ以上白状させないで!!!!!! お願い!! 恥ずかしくて死んじゃう!! この「あざとい」が成功したかしていないかは別として、無茶苦茶にあざといことには変わりない。だってもう、ターゲットを絞って狩りに挑んでるもん。天下統一狙いだしたじゃん。あざといですよ〜これは。

あいつの天下人になるために

ステレオタイプの女の子像みたいなものが世の中にはまだあって、そういう女の子=モテる。だからその像に寄せること=あざといって風潮だけど、果たして本当にそうだろうか。本当にモテるためにはきっと、相手の好みを本気で見極めて、その上で相手のための「あざとい」を磨かなければならない。じゃなきゃあいつの天下人にはなれない。

もちろん、イメージ通りのぶりっ子系あざといも特定の男の子にはモテるかもしれないけど、それが全てではないはず。だって、ステレオタイプの女の子が存在しないのと同じように、ステレオタイプの男の子も存在しない。私たちはいつでも、代わりのきかないたった1人の人間同士で、そのたった1人の気を惹くための1つの手段が「あざとい」なのだ。

全国の「私はキャラじゃないからあざといことできないなあ」と諦めがちな女性の皆さん。うちらもできるよ!! 秀吉おじさんにできたんだもん! まずはあなたにとっての織田信長がどんな人間かをよ〜く研究しましょう。それではよいお年を。

Text/長井短