結婚したかったわたしの話
今年で28歳になった。26歳くらいからアラサーを自称していた気がするけれど、そろそろ本格参入だ。これまで雑にぶち込まれていた「若い女」のステージから押し出されるか、しがみつくのか、それとも自ら飛び出すのか。選択を試されている気がする。
「若いうちはそれなりにモテて、そのうち『普通に』彼氏ができる。数年の付き合いを経て『普通に』結婚し、20代のうちに『普通に』ひとりめを出産。仕事は辞める。続けるとしても第一線の活躍はしない」
これは10代の私が思い描いていた『普通の女の人生』だ。高望みだと笑うだろうか。でも、きっと何割かの女性には受け入れてもらえる話でもあると思うのだ。
ちなみに今、30歳まで2年を切ったわたしに結婚の予定はない。出産の予定はもっとない。自分で描いた普通の道から、ゆっくりと、だが確実に逸れ始めている。
22歳、普通からの脱落の予感
わたしが人生で一番結婚したかったのが、22歳から24歳くらいの間だった。新卒で入社した会社は、いわゆるブラックに近いグレーな企業で、配属先の女性社員はほとんど皆独身だった。バリバリ働く先輩たちに憧れる一方で、どうしようもない不安に襲われた。
わたし、結婚できないかも。
元々結婚願望が強いほうではなかったので、そんな自分に驚いた。
「20代で結婚できなければ、普通の人生から外れてしまう」。そうなれば、普通以下の人生だ。当時のわたしには、それがものすごく恐ろしいことに思えたのだ。
女性の言う「結婚したい」は様々な意味を含んでいるように思う。相手が大好きだから結婚したい。親を安心させたい。自分の魅力を証明したい。わたしの場合は「仕事から逃げ出したい」だった。
わたしはデザイナーとして就職したのだが、自分には大した才能がないこと、そして、それを覆すような情熱もないことには学生時代から気付いていた。気付いていたけれど、せっかく入った大学を辞める度胸もなく、そこそこ苦労して手に入れてしまった就職先だった。
一生働ける気がしないのにそんな職場を選んだのは、いつかは仕事に打ち込まずとも生きていける――結婚してメインの稼ぎ手を降りる――未来をぼんやりと描いていたからだ。
「女の子だから我慢しなさい」と、「女の子は頑張らなくても」に挟まれながら生きてきた。それでも受験も就活も、周りの男子と同じくらいには頑張ってきたつもりだった。だけど根っこの部分では、男性と肩を並べて働き続ける覚悟ができていなかったのだ。
休みが少ない、出会いがないと愚痴をこぼしつつも、先輩たちは楽しそうだし、それぞれが魅力的だった。でも、わたしはそうはなれないと悟ってしまったから、誰かに生活を支えてほしかった。相手など誰でもよかったのだ。当時付き合っていた、大手(笑)のハイスペ(笑)彼氏(笑)でも。
言葉にしたことはなかったが、焦りは伝わっていたのだろう。結婚を匂わせる彼に振り回されて、心身を消耗したわたしに待っていたのは、他の女との婚約の知らせだった。わたしが何らかの能力者ならその場で八つ裂きにしていたし、帰りに電車に轢かれていたらおそらく呪い殺していた。わたしが非力で健康な一般人であることに彼は感謝すべきだと思う。
数ヶ月は泣き暮らしたが、わたしが執着していたのは、彼自身ではなく多分「結婚のチャンス」だった。
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