無我夢中で仕事をした先で
ふと責任の重さに気付く

「初めに配属されたのはICU。いくら勉強してきたと言っても、看護師1年目なんて単なる素人ですから、もう伝書鳩くらいしか出来ないんですよね」

12人のいなせなわたしたち第6回:看護師のはるこさんの画像

 最も緊急性が高いICUに配属され、何をしていいかも分からない毎日が半年は続いた。

「半年くらい経って初めて、“人の命を預かるなんて私には荷が重すぎる”って、一度本当に辞めたくなりました。でも、周りの人に支えられてなんとか乗り越えられて」

 仕事を任されるようになって初めて、責任の重さに気がついたという。逆に言えばそれまでは、そのことも分からないほどに目の前のことだけを必死にこなしていた。
高校時代から付き合っていた彼氏に連絡を返していないことすら忘れるほどに、ただただいっぱいいっぱいの毎日だったという。

 そこから3年、ハルコちゃんは現在進行形でバリバリ働いている。
経験年数がモノを言う世界、年上の後輩たちに指導をすることもあるという。
さらに今は、小さい頃から好きだったカーレースを思いっきり楽しむ余裕まである。

「カーレースは音も匂いも最高なんですよ! みんなみんな行ってみてほしい! 絶対楽しいから!」

 今にも泡を吹きそうなくらいにカーレースのことを力説する。働いたお金で趣味も精一杯。なんてバランスの取れた毎日だろう。

12人のいなせなわたしたち第6回:看護師のはるこさんの画像

 最近別れたという彼氏のことも、最近行ったという合コンのことも、はたまたお金を払うだけで行けてないという英会話スクールとジムのことも、ケタケタと笑いながら話してくれた。

 伝わるだろうか、健康なのだ。普通に楽しそうで、普通に恥ずかしそうで、普通に愚痴もあって、なんだか全てのバランスが取れているように見えた。ガッツリ仕事をして、ドワーっと遊ぶ。理想的な毎日に見える。

 今までインタビューした女の子たちとのこの大きな違いはなんなんだろう。ハルコちゃんのインタビューなのに、思わずそんな比較をしながら話を聞いてしまった。
だって、今までの子たちの方が「やりたい仕事をやって」いたのに、でも目の前のハルコちゃんの方が比べようもなく幸せそうなのだ。
その分かれ道はどこなんだろう?ハルコちゃんはどうしてこうなれたのだろう?好きで始めたわけではないのに、そして大変だろうに。
看護師という仕事を、どう捉えているのだろうか。

目指したわけじゃないけど、仕事が毎日発見をくれる。

「憧れで始めてたら逆に辞めてたと思います。でも私は、あとがなかったから看護師になった。大きな挫折から始まってるから、もうやるしかないですよね。始めたのは、私なんですから

 選んだわけではない看護師の仕事。でもその仕事こそが、今ハルコちゃんの毎日の根幹になっている。

 ハルコちゃんは続ける。

12人のいなせなわたしたち第6回:看護師のはるこさんの画像

「人に感謝されるからいい仕事だ、とか正直そういうことじゃない。だって、それでお金をもらってるのに、感謝されたいとか思うのはなんか変な気がします。私は正直、自分の成長が楽しいんです」

 成長することで患者さんにも還元されるし、両者にとっていいことしかないですもん、とハルコちゃんは続ける。
ハルコちゃんは今、同期の誰よりも熱心に仕事に取り組んでいる。分からないことがあったら自分で調べ、医師に教えを乞いに行く。自費で講習会にもよく出席しているという。

「自己研鑽しなきゃやっていけないし、それこそがやりがいなんですよね。新しい知識がついてそれが発揮されて、毎日が新しい発見の連続なんです。“やった、前回できなかったことが出来た!”となればとにかく嬉しいし、次はもっといい仕事をしよう、と思います。」

12人のいなせなわたしたち第6回:看護師のはるこさんの画像

 「日々の成長が楽しい」「発見が快感」とハルコちゃんは何度でも繰り返す。話を聞いてるうちに、ハルコちゃんが看護師になった動機なんて、どうでもよくなってくる。
だって目の前にいる彼女は、ものすごくしっかりした口調で医療のことを語り、どっからどう見ても看護師という仕事に興味深々だ。誇りさえ、感じられた。

「看護師ってことで患者さんに信頼されるし、知識がある専門職だからこそ役に立てていることもあるし、自信をもっていきたいなって。」

 ハルコちゃんが年末に帰省することが決まると、老人ホームに入居している祖父も年末を実家で過ごすことが決まった。ハルコちゃんが居てくれれば大丈夫、という家族の安心の現れだ。趣味のカーレース場でも、選手の手当てなどを手伝うこともあるという。
彼女は、看護師という仕事をしっかり背負って生きている。
なりゆきの仕事が、いつのまにか彼女に自信をつけさせていた。