「家族ってくだらねー」父の葬儀にも行けなかった

舘そらみ本気な奴らインタビューダンスインストラクターゆかりちゃん

 姉と2人姉妹で育ったゆかりちゃん。5歳の時に、友人の連帯保証人になっていた父親が大借金を背負い、一家は崩壊。心中騒ぎにまでなった後、家を出ていく母親の方について行った。当時まだ、小学生。
でも本当は父の元に居たかったゆかりちゃんは、「高校生になったらお父さんの元に行こう」と思うも、中学校1年の時に父親がまさかの急死。その葬儀にも、父親の実家の反対によって出席させてはもらえなかった。

「結局他人なのに、縛りだけ作って、家族ってくだらないなーって思いましたよね

 だからゆかりちゃんは、理想の家族像を持っていない。結婚願望もなければ、“家族”と聞いて思い浮かべる確固たるイメージもない、という。

「万が一結婚するとしても、そういう企画でやりたいですよね。入籍の日にイベント打ったり。そういうのお客さん来ると思いません?」

 自分の全てを、ネタに繋げるゆかりちゃん。そして二言目には、「お金を稼ぎたい」と連呼する。幼い頃に受けた、“突然家から金が消えた衝撃”は彼女の中に深く深く残っている。それは、理屈ではない。

仕事は、好きでないとダメ

「そんなにお金稼ぎたいなら、もっと稼げる業界に行けばいいんじゃない?」
彼女がそんなにエンタメ業界に固執する理由が分からず、問うた。
エンタメ業界はあまりにもリスキーだ。ゆかりちゃんだって今仕事で食べていけていると言っても、ギリギリの生活だ。だったら、もっと稼げる業界に行けばいいじゃない。

でも私、好きなことでしかお金稼ぎたくないんですよね。それはマストなんですよ

舘そらみ本気な奴らインタビューダンスインストラクターゆかりちゃん

迷いなくそう言い切るゆかりちゃん。そう、お金を稼ぎたいのは間違いないけど、嫌いなことはしたくない。反対に、好きな仕事じゃなきゃお金を稼ぐことはできないと、ゆかりちゃんは考えている。

好きだからやる仕事って、実は一番責任持ってできると思うんですよ。仕事だからやる仕事って、結果的にすごい無責任になったりするから」

 しっかり責任持ってお金を稼ぐためには、好きな仕事じゃなきゃダメだと、ゆかりちゃんは言う。好きじゃない仕事はどこか「ま、いっか」が発生しやすい。でも、好きな仕事なら妥協もしないしどんどん高みを目指せる、と。
「でもさ…」と私は思わず自分の考えを伝えた。「それだけ猛烈に“好き”にこだわるのって、何か理由があるんじゃないかな」と。

 お金を稼ぎたいという思いは、すごくよく分かった。でもそのために無節操なまでに営業を繰り出すその行動力の源には、もっと彼女自身も気づいていない衝動がある気がした。自分自身でも向き合ってない何かが、ある気がした。

「そっか、子供たちの逃げ場を作りたいのかもしれないですね。私が、ダンスに救われたから」

 一緒にしばらく考えたのち、ゆかりちゃんは信じられないほどに繊細な口調でそう言った。次の言葉を待った。

「エンターテイメントって、そういう力があると思う。目の前のことに夢中になれて、逃げ場になってくれるから。」

 何からの逃げ場なんだろう? と尋ねたら、「現実…」とぼつり呟いた。
彼女が生い立ちから影響を受けたこと、それは「お金が無くなるのが怖い」なんて言葉だけじゃない。一番受けた影響は、「現実は辛い。現実だけでは救われない」という譲れない実感であるように思う。

 ゆかりちゃんは、24歳という年齢からは考えられないほどに、随所で家族の悪口を言っていた。“愛情の裏返し”では片付けられない突き放した口調で、特に母親への恨み言を繰り返していた。
 
 恵まれて育った人たちは、ついつい「家族を愛することは当然のこと」と捉えがちだ。
でも、本当に心の底から、家族を大事に思わない人もいる。ゆかりちゃんにとって幼い日々は、あまりにも厳しい現実だった。
そこからの逃げ場所になったダンスというエンターテイメント。ゆかりちゃんも、どこかで苦しむ子供達に向けて、エンターテイメントという場を提供したい。でもそれを説明する言葉を見つけられないから、「好きなことをやりたい」という言葉にすり替えているのではないだろうか。

「でも私は、一点集中でものすごく努力する才能とか無いんですよ。今も、若い子がゴリゴリ営業してくる物珍しさで仕事が取れてるだけで。でもそれしかないから、とにかく“なんでもできます!”って言って、手広くやっていきますよ」

 エンターテイメントに絶対関わって行きたいけれど、そこで天下を取るような人間ではない。だからこそ、小さな仕事にたくさん関わって行く覚悟。

舘そらみ本気な奴らインタビューダンスインストラクターゆかりちゃん

 きっとゆかりちゃんは、エンターテイメント業界で何か1つ飛び抜けることはないだろう。何か1つで飛び抜けるには、こだわりが無さすぎる。そして、考えが深いわけでもない。

 でも、お金を稼ぐ気はする。勢いがあって、マメで、「あ、あたし、それできる!」と大声で表明しまくる人のところには、確かに仕事が集まる。それは「誰でもいい」仕事かもしれないけど、「誰でもいい」仕事も、一度受けてしっかりやったら、その人しかできない仕事になっていくから。
 
  「恋愛なんてネタにしか思ってないですよー」と、恋愛話にはほぼ花が咲かなかったゆかりちゃんとの宴。家族とか恋愛とか、そんなものは彼女を奮い立たせてくれないのだから当然だ。

 「お仕事くださーい。そらみさんと絶対一緒に仕事したい!」と最後に何度も営業されて、楽しい時間は終わった。  

舘そらみ本気な奴らインタビューダンスインストラクターゆかりちゃん

 幼少期の自分の思いに駆られ、そして“あまり才能がない自分”への諦めもあいまって、誰彼構わず、ガンガン営業しまくるゆかりちゃん。気持ちが良いほどに、無節操な若者。いいじゃない、それで。
少なくともきっと、そうやって動き続けることで、何かが変わってくいくから。
暑い暑い夏の盛りに、笑ってしまうほど元気でオープンな彼女に出会った。なんだか、応援したくなった。

 全然予測がつかないこちらの連載、まだまだ続きます。
どれくらい無節操になってあなたは生きたいですか?

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