漫画のためにだけ、打算的に生きる

 あまりのまっすぐさにタジタジになるも、「あれ?じゃあそこまでの情熱の人がなぜ一度就職したんだろう?」と疑問が芽生える。
そう、ヤナは会社員として卒業後の半年を過ごしている。

「私、“普通の人がやっている”ことは経験したいんです。じゃないと、描けないじゃないですか」

 へ!?“普通の人がやっている”ことを経験するために、就職したの?「そこまでか!」の表情が私と編集部Aに浮かぶ。

「就活って大人への登竜門だと思うんです。だから、就活を経験しないと大人向けの漫画は描けないと思ったんです。 更に言うと、就職しないと会社員の心は描けないじゃないですか」

舘そらみ漫画家インタビュー

 就活中はリクルートスーツを着ながら面接会場のビルのカフェで漫画を描き、会社員の間は夜中に描いて毎日3時間睡眠。土日はアシスタント業に走り回っていたという。
ヤナ、生活の基準が全て、“漫画のため”だ。

 あ!!でも彼氏居るって言ったじゃん!彼氏いるって言ったじゃん!と鬼の首を取ったかのように突きつけるも、玉砕した。

「恋愛はしないといけないと思うんです。じゃないといい作品が描けない。だから、作りました。恋愛感情だけじゃなく、男の生態も知れるから彼氏は本当にありがたいです

……彼氏も漫画のためか。もちろん今は好きになっているものの、特に好きでもないのに付き合い始めたという。
誤解ないように伝えたいが、ヤナは人一倍ピュアな子だ。人に対してまっすぐと誠実に向き合う人だ。
そんな人が、漫画のためならこんなにも”打算”で動けるなんて。

頑張り続ける一番の秘訣は、「その状況を作ること」

 ここまで頑張れる理由は何なんだろうか。ヤナは思いを教えてくれた。

「友達ですよね。上京の時盛大に送り出してくれて、今も”絶対夢叶えろよ!”って言ってくれる。応援してくれている人がいる限り頑張るっきゃないし、絶対手ぶらでは帰れないです」

友達の応援だけでこんなにも頑張れるの?と、努力下手の私はどうも納得しきれない。それが何年も、そして毎日も、休みも取らずに続くのだろうか。

 他にも「親に学費も返したいし」「今まで目指してきたんだし」と、いろんな理由を次々に教えてくれるが、どうも聞いててシックリこない。ヤナも自分の答えにシックリ来てないようで、少し唸り、自信なさげに呟く。

「どうして頑張れるかっていう感じじゃなくて、頑張るしか無い状況を作ってる、感じかも…」

 その答えに一同急に納得する。そうか!「どうして頑張れるのか」じゃないんだ。
「頑張る」のはもう決まっていて、頑張るために「頑張り続けられる状況」を作り続けているんだ。考え方の順序が違う。

舘そらみ漫画家インタビュー

「“漫画家になる”って公言してきたのもこうやって取材を受けるのも、逃げない理由を作りたいからですよね。
心を燃やす状況を、作り続けてるんだと思います

 ヤナだって人間だ。頑張れない時だって訪れてしまう。
でもそれは困るから、頑張り続けられる状況を作るんだ。「応援してくれるから」「取材で言ったから」「漫画家の先輩に負けたく無いから」と、どんどん環境を作っていく。

 そう、漫画家の先輩と同居したのもそれが理由だ。連載を持つ先輩漫画家との同居は、自分の意識を高く持たせてくれる。25歳までというリミットも、盛大な発奮材料だ。

「別に根拠もない年齢だけど、イメージがしやすいから25。もう時間ないぞ!って自分にハッパをかけ続ける。25までに連載を持てなかったら、死ぬんです」

 25に連載を持てなかったら別の道を探す、じゃ無くて、「死ぬ」。別に自殺するなんて意味ではなく、自分を走らせるための大きな大きな燃料だ。
「25までに連載を持てなかったら、死ぬ」のだ。つまり、それ以外の選択肢は無いのだ。

人を助けたいし、世界を変えたい
私も漫画に救われたから

舘そらみ漫画家インタビュー

 そんなヤナの漫画を通しての思いは「人を助けたい。そして、世界を変えたい」というもの。
ヤナ自身、漫画に助けらたことがある。絶望の中学生時代、ある漫画から「人間の可能性は無限大だ」のメッセージを受け取り一念発起して勉強し、難関校に合格した。

「頑張って頭の良い高校に入れたっていうだけなんですけど、その高校に入れたことで人生は大きく変わっていったんで。私は、漫画に救われたんです。
だから私も、私の作品で誰かを助けたいし世界を変えたい」

 熱い思いに駆られて、毎日毎日努力を続けるヤナだ。

「まあ誰かを助けたいって描いてても、結局描くことで私が助けられてるんですけどね。
漫画を描くことで、自分の居場所をキープできてるんだと思います」

「結局は自分のためなんですよね」と照れるヤナは、すごく強いと思う。
自分の心の底を読み取り、弱さを口にする。簡単なようでとっても難しい。
何度も何度も真剣に自分と向き合い、考え抜いてきたからこそ言える言葉だ。

「じゃ、家帰ってネーム描きますー」

 と、ひとしきり飲んで食べたあと、ヤナは家に急ぎ帰った。サボったら死んじゃうとばかりに、ダッシュで帰っていった。

舘そらみ漫画家インタビュー

 ヤナは近い将来、連載を持つだろう。
そして、彼女の名をみんなが知ることになるだろう。
そう思わせてくれるパワーが、ヤナにはあった。

 それはオーラなんて曖昧なものではなくて、彼女から漂いまくる”漫画家っぽさ”。
バレバレなほどに、ずっと漫画のことしか考えてない。「これほど努力してる人を見たことがない」。そう思わせる何かがヤナにはあった。
「まあ、ここまで頑張ったし、もう少ししたら連載なんだからやるっきゃないですよね」と語るヤナにとって、漫画家として有名になっていくことはもう夢ではない。簡単に想像出来るそう遠くない未来。

 もちろんそれは困難な道だろうが、ヤナは成功する自分をすんなりとイメージしている。そのために努力を続ける覚悟も、当たり前のようにある。
今だって、休みも取らず猛烈な勢いで描き続ける毎日だ。自分をサボらせないために、自分のやる気をキープし続ける努力も惜しまないヤナだ。きっと成し遂げていくだろう。
ヤナほど頑張ることも夢見ることも出来ないけど、まあ私は私で頑張るかー!と家路に着いた。

「12人のイナセなわたしたち」は、まだまだ続きます。
あ!じゃあこれやってみよう!この人に会ってみよう!なんて、小ちゃな何かを始められることを願って。小さなことでもいいんだい。
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