正攻法は必勝法ではない

“普通の恋愛”という一見つまらない作業を多くの人々が飽きもせず一生懸命に繰り返すのは、それしかできないからだと先ほど申し上げましたが、それに加え、イチバン慣れていて、成功率の高い方法だと分かっているからだとも言えます。謂わば正攻法ですね。正攻法は比較的容易で多くの敵に効くとされている王道戦略ですから、それさえ知っていたらある程度はステージを進むことができるのです。

でもゆうかさんは一般に知られる正攻法を知らず、今まで亜流な戦略で戦ってきたということになります。そんなゆうかさんの前に今回、どうしても倒したい強敵が現れました。そういった敵に相対した際、一般に成功率が高いからといって、ゆうかさんご自身が一度も用いたことのない正攻法で挑んで果たしてうまくいくのでしょうか?

ゆうかさんが“セフレコースは避けたい”とおっしゃるのは、世に溢れかえる恋愛ハウツーで『健全な恋愛でこそ、本物の恋は育まれる』だの『セフレから本命に昇格することは不可能である』だのという言説がまことしやかに流布されているからでしょう。でも、それらの恋愛ハウツーはほとんどが正攻法を用いる人々のためのものです。つまりゆうかさんには、正直なんのアテにもならないのではないかと私には思われます。

どう気をつけていてもセフレになる時はなってしまうし、恋人になるまでのリードタイムがその後の関係に影響を及ぼすとは思えません。
では、恋愛では、いったい何が勝敗を分けるのでしょうか。それはズバリ、相手の持つ時間や思考の中に自分という存在が占める割合をいかに高められるかです。要はいち早く相手の懐に潜り込んだ者が勝つということです。正攻法を用いる戦士たちがLINEのやりとりを延々と続けたり、たいして面白くもないデートを重ねたりするのはそのためです。
つまり、裏を返すと相手の懐に潜り込みさえすれば、そこに至るまでの方法なんて亜流だろうが邪道だろうが、なんだっていいのです。

ゆうかさんは多くの貞淑な女性が苦手とする、男性をベッドに誘うことにかけては超一流とのことですから、その類稀なる手腕を発揮せずしてどうするというのでしょうか。どうぞ本気を出して、意中の男性をいち早くベッドに連れ込んでください。持ち合わせる技巧の限りを尽くして、悦ばせてあげてください。
「なんかイイかも……」と思ってもらえて呼ばれる回数が増え、くんずほぐれつした翌朝にモーニングを一緒にする機会が増え、次第にお互いのことがもっと知りたくなって毎日LINEするようになって、セックスする以外にも映画やショッピングに出掛けるようになって……結局、結末は正攻法を用いた場合と一緒じゃないですか!

ゆうかさんがご自身のいちばん得意な、いちばん楽しい方法で戦って、意中の男性の心身を手中に収められるよう、ご武運をお祈りしています。

この連載では、引き続き皆様からの恋愛相談をお待ちしています。

まるで賢者かなにかのように散々恋愛戦法を語ってしまった私ですが、ここ最近はフィールドにも出ていない臆病者のご隠居です。普通の恋愛も邪道な恋愛もそれぞれの面白さがあり、危うさがあり、痛みがあります。モラルや道徳観を一旦除いてしまいさえすれば、恋愛のアレコレに貴賎も優位性もないのだと、村人Aの私は思います。
またお会いしましょう!

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Text/海坂侑