自転車に鍵をかけず盗まれた元カレ。今なら気持ちが分かる

大泉りかコラム

先日、銀行に生活費を下ろしにいった際のことです。通帳記入をして先月の出入金をざっと確認していると、なんと、ひとりあたり一律10万円の給付となる『特別定額給付金』が入金されているじゃないですか!
振り込まれたらお知らせのハガキが届くとすっかり思い込んでいたため、「遅いなぁ。まだかなぁ」と焦れていたのですが、すでに振り込まれ済みだったとは……。ハガキでの通達は、市区町村によってあったりなかったりということを知らずに、すっかり油断をしていた。なにはともあれ、ありがたき臨時収入。ちょうど銀行の前に止めていた、かれこれ6年ほど乗っている少々古びた自分の自転車を見て、「給付金で、自転車を買い替えるのもいいなぁ」なんて思った次第です。

ところで、話は変わりますが、最近は、日中にコンビニで買い物をしたり、ATMでお金を下ろすなど、短時間で済む用事のとき、自転車にあまり鍵を掛けません。値の張る電動アシスト自転車に乗っておいて、防犯意識が欠如している行動かもしれませんが、「盗まれないだろう」と見積もっているのには、それなりの理由があります。

わたしの自転車は、後部に生活感に溢れるまくっている子乗せのシートがついているザ・ママチャリなのです。なので、子持ち属性に見えない人には、乗るにあたり心理的ハードルがちょっとあがるのではないかということ。さらには、子乗せシートのステップ部分が、ちょうど鍵口を隠してくれるため、ぱっと見に鍵がかけっぱなしであることがわかりづらい。
そういう条件の上なので、夫が所有しているノーマルな自転車を乗る場合は、絶対に鍵を掛けます。そもそも人のものを借りて、それを盗まれるわけにもいかないし。

自転車を盗まれた恋人の言い分

かつて、恋人の自転車が盗まれた現場に居合わせたことがあります。とある週末、恋人の住んでいた街の駅前で、仕事終わりに待ち合わせたときのことでした。彼の家に行く前にコンビニに立ち寄ることになったのです。

恋人は、乗ってきた自転車をコンビニの前に止め、店内へと入っていきました。わたしも後に続いて、ともに会計を済ませて外に出てくると、さっき止めたはずの自転車が影も形もない。「えっ! 自転車は!?」と、急いで、あたりを見まわしたものの、どこにも見つかりません。わずか数分の間に、誰かに盗まれて持っていかれてしまったようなのです。

コンビニでちょっとした買い物をしている隙に、自転車の鍵をこじ開けていくとは、なかなかの手練れ……いや、そもそも彼は自転車に鍵を掛けていたのか。疑問に思って恋人に尋ねてみたところ、返ってきたのは「掛けてなかった」という答えでした。

週末の夜。駅から吐き出される通勤や通学を終えた人々に加え、小さな繁華街となっているため、ひっきりなしに酔っ払いが通り過ぎていく駅前のコンビニ前です。どんな阿婆擦れた恰好をしていようが、レイプされていいわけではないのと同じで、鍵をしていないからといって、その自転車に乗っていっていいわけではない……が、そうと頭ではわかっていても、「えっ? なんで鍵、掛けてなかったの?!」とつい疑問を呈する発言が、わたしの口から出てしまった。

「ああ、自転車を盗まれてへこんでいる人に追い打ちを掛けるようなことを言ってしまった」とすぐに反省したものの、時すでに遅し。恋人は「なんで、自転車を盗まれた俺が責められないといけないんだよ」と拗ね始め、「なんだか面倒くさい展開になってしまった……」と己の迂闊さを呪っていたところ、恋人はさらにこう続けたのです。

「そもそも、鍵を掛けていない自転車があったからといって、それを盗もうという人間が、この世の中に存在することが悲しい」

そんな正論すぎる正論には、なにも反論できません。他人の自転車を盗もうなんて人が存在しない世の中が素晴らしいこともわかっている。けれどちょっと待て。お前が自転車に鍵をしないのは、そういった素晴らしい世の中を実現するためではなく、ただただ、鍵を掛けるという、その手間が面倒なだけだろ。 そのわずかな手間を惜み、みすみす自転車を盗まれた結果、その場に居合わせたわたしが「せっかく会いにきた恋人が不機嫌」という巻き込まれ事故に遭っているのは、どういうことなの……。